テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.04.04

第2回 猫の駆け引き

 デンスケの本名はキューちゃんということがわかったのですが、ぼくらが「キューちゃん」と呼んでも反応しないのはなぜなんでしょうか。

 牧さんからもらったメールに、キューちゃんが先週5日間も帰らなかったと書いてありましたが、キューちゃんはいろんな家に通っているのは事実です。そして、その家々で別の名前をつけられているので、外にいるときは「キューちゃん」と言われても返事をしないようにしているのかもしれません。

 牧さんからメールがきてから数日後、美子ちゃんと夜の散歩をしているとき、「キューちゃんの家、思い当たるところがあるよ」と美子ちゃんが言うので、行ってみることにしました。

 そこはうちから意外と近いところで、広い敷地に大きな温室があり、その中には鉢植えのいろんな植物が並んでいました。キューちゃんが、うちの庭でサボテンをクンクン嗅いだりするのは、その温室で植物に親しんでいるからかもしれません。

 「いまごろキューちゃんはどうしてるんだろうね」「牧さんの膝の上でゴロゴロ言ってるのかなあ」とか言いながら歩いていると、美子ちゃんが「ちょっとちょっと」と言って、ぼくの腕を引っ張ります。見ると、よその家の庭にキューちゃんがいました。小さな声で「デンスケ」と呼ぶと、こっちを見てミャーと返事をします。ちゃんとデンスケという名前を覚えているのです。賢い猫です。

 目を凝らして見ると、キューちゃんのそばには大きなガマガエルがいました。そのガマガエルはまったく動きません。しばらくすると、キューちゃんはガマガエルに飽きたのか、向こうのほうへ行ってしまいました。こんな時間に外を歩き回っているなんて、キューちゃんは本当に家にいない猫なんだなあ。

 キューちゃんがいなくなったと思ったら、ガマガエルがピョンピョン跳ねて草の中に入っていきました。ガマガエルもキューちゃんに捕まって、必死だったのかもしれません。

 7月も終わりになったころ、うちの庭に違う猫がひょっこり現れました。顔の大きいキジトラに白が入った猫で、庭石の上に座ってジッとこっちを見ています。鈴がついた首輪をしているので、どこかの飼い猫だと思います。顔に表情がなく、お面を被ったような猫です。顔がデカイので「カオデカ」と呼ぶことにしました。

お面のような顔のカオデカ

 美子ちゃんがカオデカにもカツブシをあげたら、ときどき来るようになったのですが、今度はキューちゃんが来なくなりました。比べるのは悪いけど、表情のない顔でこっちを見ているだけのカオデカより、サボテンを嗅いだりする表情豊かなキューちゃんに来て欲しいなあ……と思っていたら、久し振りにキューちゃんが現れました。「デンスケ、デンスケ」と呼ぶとミャーと鳴きます。ガラス戸を開けると家の中に入ってきました。

うちの猫のような表情をするキューちゃん

 すると、今度はカオデカが庭に現れました。いつものキョトンとした顔でジッと中を見ています。キューちゃんはガラス戸越しにカオデカに近づきます。それまでは不安そうにうちの中をウロウロしていたのに、カオデカが現れたら、うちの猫のような落ち着いた顔になってジッと座っています。猫の駆け引きでしょうか。

 そのうちカオデカがどこかに行ったので、ガラス戸を開けてキューちゃんを外に出しました。するとカオデカが突然現れ、キューちゃんを追いかけました。大丈夫だろうか、キューちゃん。(つづく)

第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し