テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2016.05.23

第9回 ねず美ちゃんの母性

 美子ちゃんは、母性のある乳母のようなチーコというノラ猫に育てられたことを前に書きましたが、小さいねず美ちゃんも母性がある猫でした。

 ある日、キューちゃんの本家の牧さんが、坊やたち2人と親戚の子どもを連れてわが家に遊びに来ました。

 来夢くんは赤ちゃんなので、ねず美ちゃんが引っ掻いたりしないか心配でした。ところが、あんなにいつも障子を破ったりして暴れ回っているねず美ちゃんが、肌の柔らかい赤ちゃんがそばにいると、赤ちゃんという存在がよくわかっているような表情で、静かに慈愛に満ちた眼差しで来夢くんを見ているのです。

来夢くんを優しく見守るねず美ちゃん。

 前回紹介したポール・ギャリコの『猫語の教科書』という本に、先輩猫から後輩猫に向けたこんな言葉が載っていました。

――忠告をひとつ。どんなにひどいことをされても、子どもに対しては、歯や爪をたててはなりません。(略)ひっぱられても、ひきずられても、ひきのばされても、押しつぶされて窒息させられそうになったって、みんな子どもが、猫を自分の仲間だと思ってしたことです。(略)がまんするしかないわ。

 猫族の間では、子どもに接するときの心構えとして、こういうことが先輩猫から伝授されているそうです。

 3人の子どもたちが、ねず美ちゃんにおっかぶさるように乗っかってきても、ねず美ちゃんはじっと我慢しています。逃げ出して二階に行けば、そんなことされなくても済むのに、子どもたちに押しつぶされそうになるのもまんざらでもないような様子です。普段のねず美ちゃんは、ぼくらの前では子どもになって甘えたり暴れたりしているのですが、子どもたちを前にすると、自分たちを仲間だと思ってくれることに対して、仲間返しというか、ついついサービスしてしまうのでしょうか。

 あるいは、赤ちゃんに対して母性を持って接するのは本能なのでしょうか。猫の本能の中には、5000年もの間に積み重ねられたいろんな知恵や知識が入っていて、計り知れないところがあります。

「ちょっと苦しいけど我慢、我慢」

 ねず美ちゃんを貰ったペットショップUSAのマダムや、獣医さんからの助言で、1年間は家の中だけで飼うことにしていたのですが、ねず美ちゃんはノラ出身のためか、うちに来たときから外に対して興味津々なのです。そのため、天気のいい日は庭にゲージを出して、その中にいれて外の雰囲気を味合わせてあげます。ときにはリードをつけて庭に出すこともあります。

 そんなとき、ねず美ちゃんは、笹の葉をくわえてみたり、花の匂いをかいでみたり、小さな庭にある自然を満喫しようとしています。「いまは猫エイズが怖いですよ」「外に出したら交通事故に遭いますよ」と言われていたので、家の中だけで飼うのがねず美ちゃんにとって幸せなんだと思い込もうとしていましたが、やっぱり外に出してあげたくなります。

外に出たいなあ。

 裏にある広い農大の農場のことや、隣の庭にいっぱい咲いている花の匂いのことや、トカゲを追いかけたことなんかを、毎日やって来る黒ホッカくんや顔デカくんに教えてもらっているみたいだと、美子ちゃんは言います。いずれにしても、ねず美ちゃんの外に出たい願望は日に日に強まっていくようでした。

第1回 マキ・キュー

第2回 猫の駆け引き

第3回 ネズミのような猫

第4回 黒ホッカおじさん

第5回 騒々しい庭

第6回 猫に話しかける

第7回 チーコ物語

第8回 猫の乗っ取り

第9回 ねず美ちゃんの母性

第10回 猫の癒し