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DATE/ 2017.04.24
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「働き方改革」の二つの視点-余裕と必要性

 先日見たニュースでは、プレミアムフライデーと過労死の話題が同居していましたが、少なくとも「働き方改革」という言葉は最近、よく耳にするようになりました。それもそのはず、今や人生90年、100年時代ですから、「仕事一筋〇十年」ではもたないのですね。同時に「生涯現役」といった言葉もよく耳にします。人生を楽しみつつ仕事にも張り切って関わり続ける。その前提としての「働き方改革」について、東京大学第28代総長で株式会社三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏に話をうかがいました。

●ようやく「働き方」を考える余裕が生まれた


 小宮山氏が「働き方改革」を論じる上で掲げた二つのキーワードは、「余裕」と「必要性」です。この二つが、働き方改革を考えるにあたって非常に重要な視点になるのです。

 一つ目の「余裕」は、ようやく人類は働き方を論じる余裕を持つようになったということです。つい100年ほど前までは、どの国でもほとんどの人が皆、自分たちが食べる分の農作物を育てることに必死でした。朝から晩まで農作業の日々を送っていたのです。

 日本では明治時代になって工業化社会に移行したのですが、労働状況はあまり変わりませんでした。なぜなら、工業化社会では人の働く時間が生産量に比例していたため、いかに多くの人が長い時間働くかが労働の基本だったからです。

 人は長らく農作物の成長に合わせて働いてきたわけですが、次には機械に合わせて働くということを余儀なくされたのです。こんな状況では、働き方を論じる余裕など生まれるはずがありません。

●「合わせる」働き方から自由な働き方へ


 その後、機械やさまざまな技術が進歩し、人が労働に割く時間や手間が随分と軽減しました。その分、働き方も自由になり、ようやく皆、働き方そのものについて考える余裕を持ち始めたのです。

 身近な例を挙げると、ガスや電気といったインフラが整備され、炊飯器にガスコンロ、洗濯機といった道具が普及したことで、家事に関わる時間が大幅に軽減。そこで浮いた時間を使ってパートで働く主婦が増えたり、あるいは余暇を楽しむようになったりと、人それぞれに時間の使い方、その選択肢が生まれました。つまり、働き方を論じる「余裕」が生まれたということです。

●もうこのままでは社会はもたない!


 働き方改革論議の二つ目の理由「必要性」は、小宮山氏いわく「この問題を突破しないことにはもう社会はもたない」という、待ったなしの状況に今、きているということです。

 言いつくされていることですが、日本は世界屈指の少子高齢化社会です。「60歳定年」が導入された当初は平均寿命も60歳弱で、仕事と人生の長さがほぼ一致していました。しかし、今は例えば22歳から働き始めたとして60歳の定年時は、感覚としてはおよそ人生の折り返し地点。働いてきた時間と同じくらいの長さの第二の人生が待ち構えていることになります。

●働き方に対する考え方そのものが変化した


 このような状況では、若い人が入社してから定年までのおよそ40年近くを「全て仕事に捧げよう」という感覚を持たなくても不思議ではありません。仕事は、平均寿命90年、100年といわれる人生のなかでの一部、という捉え方を多くの人がするようになったのです。その一部を何かに「合わせる」働き方に費やしてしまってはもったいない、と考えるのも当然です。

 選択肢を広げて、それぞれに合った働き方が働く人の数だけあってもいいはずで、そういう意味においては、国が言い始めた「残業時間のマックスを決めよう」などといったレベルは働き方改革の初歩の初歩だ、と小宮山氏は断言します。今までの常識にとらわれない自由な考え方が働き方改革には必要なのですね。

●企業生き残りに「働き方改革」は必須


 こうして働き方改革が取り上げられるようになった今、その推進の原動力は企業による改革の受け入れにある、と小宮山氏は言います。それは例えば、元気な高齢者を新しい労働力として積極的に活用すること。また、若い人がもっと活躍できる新たな仕事をつくり出すこと。高齢者と若者の双方を生かす働き方ルールが、これからの企業には求められているのです。

 これからの労働市場は自由市場になり、いい人材はより良い条件のところに集中します。したがって、働き方改革を行わない企業はもはや生き残れない、という厳しい言葉も小宮山氏の口から出ました。

 いずれにしても、この問題を社会や企業の問題だけではなく、自分のこととして捉えて考えてみてはいかがでしょう。
(10MTV編集部)