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DATE/ 2018.12.19

街の寂れた「金物屋」はなぜ潰れないのか?

 外観がボロボロで、明らかにお客さんが入っていなくて、どうやってあのお店は経営しているんだろうと不思議に思ったことはありませんか。たとえば、紳士服店や呉服屋さん、理髪店、定食屋などなど、いろいろと思い浮かぶ業種があると思いますが、今回取り上げるのは金物屋さんです。

 アマゾンをはじめとするネットショッピングが浸透し、大型のホームセンターが林立するいま、街の金物屋さんが生き残っていくのは至難のわざです。では、いったいどうやって稼いでいるのか。金物屋さんのサバイバル経営術に迫ります。

1982年には2万店以上あった

 いわゆる街の金物屋さんは80年代以降、ホームセンターの増加とともに大きく減少してきました。経済産業省の「商業統計表」によると、1982年には2万店以上もあった金物小売業のお店が2007年にはおよそ8千ほどにその数を減らしています。

 金物屋さんが位置する商店街自体がシャッター街化し、衰退していったことも廃業増加の大きな理由とされています。つまり、金物屋さんは現在にいたるまでもう数十年も苦境に立たされていることになります。まさにサバイバル時代を戦ってきたわけです。

強い金物屋さんは地域の便利屋さん

 廃業を余儀なくされた金物屋さんと、生き残っているものたちにはどんな違いがあるのでしょうか。まず第一に言えるのは、強い金物屋さんは金物業を専門にしていないという特徴があります。合鍵の作製やドアや窓の修理など、できるかぎり手広く地域の便利屋さんの役目を担っています。

 そのほかにも地縁の強みを生かし、学校指定業者となって、ある程度まとまった数の清掃用具などを納品して利益を出しているお店もあります。

富士フィルムとコダックの命運

 企業の大小にかかわらず、こうした新展開ができるかできないかが、その命運を左右します。たとえば、写真フィルムの大手の富士フィルムはデジカメの普及にともない売上が大幅に減少してきたことを受け、化粧品業界に進出しました。

 それまで培ってきた本業のテクノロジーを最大限に活用できるフィールドを発見し、成功をおさめています。他方、写真フィルムにこだわり続けたコダックは倒産の道を歩むことになりました。要するにどこにこだわりを見出すかの違いです。

地域住民だけが顧客ではない

 地域に利を見出すものもあれば、急速に発達をしたネット通販の波に乗って生き残っている金物屋さんもいます。建築金物や園芸用品などをネット販売するケースもあるようです。

 ポイントは地元の「住民」だけが顧客ではないということ。この戦略をとることによって、先述した商店街のシャッター街化など環境に振り回されない経営を行うことができます。

 地域の便利屋になるにしても、ネット販売に力を入れるにしても、既存のやり方にこだわらず新しい戦略をどんどん取り込んでいくことがサバイバルの秘訣と言えそうです。

 金物屋さんを揺るがす激動は、私たち個人の身にも迫っています。現代は、ひとつのテーマや方法にこだわり続けていては仕事も生活も成り立たない、いわば多極化の時代です。ぜひぜひ金物屋さんのサバイバル経営術を活用してください。

<参考サイト>
・商業統計の長期時系列データに見る 業種別商店数の増減とその要因
 https://www.hosei.ac.jp/fujimi/riim/img/img_res/WPNo.136_Minami.pdf
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