●アメリカとイランの関係再構築を揺るがす要素
皆さん、こんにちは。
今回は、前回のウィーンにおけるイランのウラン濃縮に関わる最終合意の続きとしまして、前回触れた肯定的評価、あるいは、否定的評価に近いのですが、中間的評価と申しますか、もう少し中立的な評価という立場があり得るのではないかということで、その点についてお話ししてみたいと思います。
最終合意によりまして、確かに明るい材料がないわけではありません。すぐではないにせよ、アメリカとイランとの間が客観的にデタント(緊張の緩和)というものに発展する可能性は全面的には排除できない、つまり、そういう可能性も否定できないということであります。
アメリカは、冷戦期のある旧思考から抜け出すことが長い間できませんでした。その旧思考とは、中東においてイスラエルとサウジアラビアを同盟国として絶対視するあまり、アメリカは、イランを潜在的、あるいは、顕在的な敵国として固定的に見るという考え方でありました。
しかしながら、バラク・オバマ大統領の外交にポジティブな要素がもしあるとすれば、それは、この間のミャンマーとの国交正常化、キューバとの国交の回復、それに引き続きまして、イランという敵対国家との関係を再構築するという道に歩み出した一連の流れであります。これらが、オバマ大統領による米国のグローバル戦略の大きな修正であるとともに、地政学上の新しい大きな修正をもたらす可能性があります。
しかしながら、中間的評価、あるいは、中立的評価と私が申したのは、なかなかにそういう楽観的なことだけで捉えられない要素が含まれているからであります。
それは、7月14日のオバマ大統領の声明において、もしイランが核兵器を秘密裏に開発しようとしているならば、あるいは、核兵器の秘密の開発が実際に行われていることが近い将来露見した場合には、制裁が再適用されると明言したことです。そして、オバマ大統領は、軍事行動のオプションもその場合は残る、ということも併せて述べました。
●イランとアラブ諸国の対決にどう関わるか
現在、イランとイスラエル、あるいは、イランとサウジアラビアとの対決が進行しています。そして、こうしたスンナ派のアラブ諸国に対して、ガーセム・ソレイマーニー将軍に指揮されたイランの革命防衛隊による軍事干渉が増大し、この革命防衛隊が、事実上シリアやイラクにおいては、IS(イスラム国)との対決の最前線に立っているという現状があります。
こうした現状に、アメリカやヨーロッパはどのように関わるのかという問題が残ります。おおよそ三つ考えられるでしょう。そうした対決の軸から自分たち米欧は離脱して、レッセフェール(なすがまま)にするのか、あるいは、単に傍観するだけなのか。あるいは、そうした対決に加わるという選択肢もあるということです。いずれにしましても、最終合意の後の時期になりますと、別種類の緊張が生まれることは間違いありません。
したがって、こうしたことを見越して、ある意味では、P5プラス1のうちロシアが提言した「イランに対する武器禁輸解除の提案」を他の国々が拒否したことは、まことに正しいと言わなければなりません。要するに、紛争の当事者である片方に対して、武器の持ち込みが自由ということになりますと、紛争の激化が避けられないのは当たり前のことなのです。
このあたりのところは、良く言えば、まことにロシアの端倪すべからざること、悪く言えば、「まったくよく言うね」ということかもしれません。
●イスラエルに中東平和プロセス見直しの可能性
私の触れた中間的、あるいは、中立的な評価とも言うべきものは、まずバランスの取れた見方であろうかと思いますが、そこを考える場合に大事なことは、より大きな枠組みで考えるということです。つまり、中東における地域協力の枠組みは、どのように可能なのかということを考えませんと、実は今回の最終合意の正否について語ることはできないのです。
非アラブの中でもトルコは地域大国であるがゆえに、イスラエルとアラブ諸国による中東和平プロセスに関与してきました。しかし、イランは、明らかに中東の地域大国であるのに、非アラブであるがゆえに、そこから一貫して排除されてきました。
確かにイランは、これまでパレスチナのハマスや、レバノンのヒズボラに対する軍事援助や核兵器開発において、イスラエルの脅威であったことは間違いありません。しかし、今回の最終合意は、ある種の時間的余裕を与えています。つまり、イスラエルがこれまでパレスチナ人との平和プロセス、和平合意に前向きでないのは、イランの脅威があるからだということです。イスラエルに対して、イランが核開発によって脅威を与えているからという口実で...