●女性は更年期後、テストステロンが増加する
では、テストステロンが減っているのはどんな人なのかというと、こういう人です。
例えば、60歳を過ぎた頃から怒りっぽくなった。英語でいう“edgy(いらいらした、短気な)”です。あるいは、何かやろうとしても根気が続かず、妥協したりあきらめたりすることが多い。それから、ゴルフも興味がなくなった。逆にいうと、毎週のゴルフが楽しみな人は、問題ありません。また、筋肉痛が続き、疲労感がとれない。寝つきが悪い。最近おしっこが近くなったり、体がほてったり、急に汗をかくことがある。
10年ほど前まで、こういう人はいろいろなクリニックに行かれても、「正常です」と言われて困っていました。しかし、最近になって、テストステロンを測ると、「あ、ずいぶん低いですね」ということで、男性更年期だと言われることがあります。
ただ、われわれ専門医は、最近、「男性更年期」という言い方をあまりしないようにしています。というのは、大変つらいものだと思いますが、女性の更年期には、「月経が終了する前後5年」という定義があります。最長10年間、月経が終了する前後5年と決まっていて、その更年期が終わると、女性はかなり元気になっていきます。少し古い例ですが、ヨン様などスターやアイドルの追っかけをしたり、旅行に行ったりと、非常にアクティブになります。
例えると、男子高校生のようになって、一緒につるんでいく。電車の車中で、男子高校生が4人ほどいると、お互いジャブを打ち合いながらおしゃべりしたりと楽しくやっていますが、更年期の終わった女性もちょうど近いものがある可能性があります。
われわれが、京都大学と一緒に、南会津地方で、男女約3000人を対象に、ホルモンの値を測ったところ、40代・50代では明らかに男性の方が高いのですが、男性はだんだん減っていきます(中には高い人もいますが)。一方、女性は、驚いたことに、男性ホルモンがだんだん上がっていくのです。そして、80歳ぐらいになると、案外女性の方が男性より高い。ですから、おじいさん、おばあさんには、遠くから見ると、どっちがどっちか分からないケースがあります。あるいは、家族で出かけるときに、皆さんにも心当たりはないでしょうか。若い頃は先頭がお父さん、次にお子さん、最後にお母さんだったのが、70歳、80歳になってくると、奥さんが先に行って、ご主人が後からついていくようになる、というようなことが。
この「実は女性は年齢とともにテストステロンが上がっていく」ということが、最近分かってきました。このデータは、われわれが世界で最初に出したものです。
「更年」を広辞苑で調べると、「新しく生まれ変わること」とあります。チェンジするということです。そうすると、誤解を恐れずにいうと、女性は、月経が終了することによって女性ホルモンは大きく下がりますが(これは全員下がります。吉永小百合さんでも下がります)、しかし、そのあと男性ホルモンが上がっていきますから、そこで頭の考え方が、男性の思春期と近い状態になってくる。非常にアクティブになってくるのです。
もともとテストステロンが高い女性の方は、もちろんそういう考え方ですが、いわゆる一般的な主婦などの場合、女性ホルモンは、どちらかというと自分の巣を大事にします。ですから、あまり世間一般やパブリックへの関心が高くありません。自分のファミリーや身近なところを大事にする発想です。それが、男性ホルモン脳になってくると、よりパブリックや社会といったものに対して関心を強め、出かけていくようになってくるわけです。
ところが、男性は、生まれ変わるものがありません。男性更年期の場合、待っていれば何かがチェンジしてくれるかというと、何もないのです。うっかりすると、どんどんホルモンが減っていってしまうだけです。しかし「更年期」と言うと、しばらく待っていれば良くなるのではないかと誤解させてしまうミスリーディングなところがあります。そういうことから、われわれは最近ではあまり「更年期」という言葉を使っていません。
●約600万人が低テストステロン
これは、われわれが8年前に発表して、読売新聞の1面に出たデータです。男性ホルモンは、朝9時に一番高く、夜9時に一番低くなります。このように1日の間で変動があるものを、医学の言葉で「日内変動」と言います。20代から30代の人は、朝に一番高く、夕方に下がってきます。ですから、朝が一番意欲がある、チャレンジする気持ちがあるということです。60代以上になると、あまりそういう差はありません。お昼前頃が少し高いぐらいです。ただ、20代に比べるとだいぶ低いです。
僕らが驚いたのは、これは健康な人のデータなのですが、4...