●働く人の5パーセント、100万人が気分障害の患者
ひもろぎ心のクリニックの渡部と申します。よろしくお願いします。
本日は、うつ病についてのお話をさせていただきます。特にうつ病には、体の症状が非常に特徴的に出てきますので、「うつ病の身体症状」という話をさせていただきます。
まず気分障害(うつ病や躁うつ病)の患者さんは最近非常に増えてきまして、保険のレセプトにおける病名では、大体100万人ぐらいいるといわれています。
これをご覧になっている方々は企業の方が多いと思いますが、企業の中ではどのぐらい治療をしている人がいるかというと、大体大ざっぱに言って5パーセントぐらいいるだろう、ということです。私もいろいろな企業に訪問してお仕事をさせていただきましたが、大体100人居れば5人ぐらいが通院しています。休職している人はこれより少ないのですが、雇用主が知らないでお薬を飲んでいる人も併せると、大体5パーセントぐらいいるのではないかと考えています。
●年間3万人を超える自殺と、企業の損失
近年はこの数が非常に増えてきて、平成9年から20年の間に患者さんは倍以上に増えてきているといわれています。
それに合わせて日本では、精神科の患者さんの自殺が非常に増えてきています。平成7年ぐらいから少し増え始めて、特に平成10年ぐらいにかけて倍以上に増えています。その後、皆さんご存じのように3万人を超えるような状態が、ここ10年以上続いているのが、自殺者の現状です。
特に企業の中で突然自殺する方が居ると、働いていた戦力が突然失われるということになります。精神疾患で企業の職場から離れていくということは、大変な損失です。例えば、システムエンジニアの人であれば、一人養成するのに数千万円掛かります。一人欠けるだけで、そのような人材を育てるためには大変なお金が掛かるといわれています。
しかし、自殺者は3万人ぐらいに増えているというのが、今の現状だということです。
●身体症状を訴えるうつ病患者を実際に精密検査すると身体はどこも悪くない
では、実際にどんな症状が出ればうつ病なのか、とよく聞かれます。「気分が落ち込んでいる」とか「やる気がない」という前に、体の症状を訴える場合が非常に多い。
頭痛、胃が痛い、下痢が続く、食欲がない、あるいは体重が減っている、動悸がする、もしくは視力低下や学力低下と、非常にさまざまです。
例えば視力が低下したといって、何個も眼鏡を作り替えた挙げ句に私のところに来た人もいます。「20個ぐらい眼鏡を作ったんだけど、レンズがちゃんと合わない」という人でした。
ただし、こういった方も、最初症状を訴えたときには内科を受診していろいろな検査をされています。目が悪いと訴えがあれば眼科の検査をするし、頭痛があれば脳外科へ行ってCTを撮ってみる。胃が痛ければ内視鏡検査をやってみる。しかし、実際に精密検査をしてみるとどこも悪くないというのが、典型的なパターンです。
●検査の果てに精神科へ来るのが典型的パターン
ですから、病院を転々とされて、最終的に異常なしということで精神科に来る方も居らっしゃいます。
私のところの患者さんの中には、入れ歯が合わないという人もあり、自分の歯を全部抜いてしまったけれども違和感があるということで来られた方もお一人居らっしゃいました。そういう方は、実は治療をすると、あっという間に症状が消えてしまうということがあります。先ほど言ったように、眼鏡が合わないからと20本も作った方も、居らっしゃいました。
うつ病の患者さんが最初に受診する科は、約6割が内科だといわれています。最初から精神科に来る患者さんは、グラフにあるように全体のたった13.2パーセントぐらいです。
ほとんどが内科を受診して、検査をしてどこも悪くない、症状があるのに異常なしということで、初めて精神科に回されてくるパターンが非常に多いということです。
●隠れたうつ病を確定診断するポイント
実際に、うつ病の症状で一番訴えの多いのが、身体症状です。「眠れない」から始まり、「食欲がない」「性欲が落ちる」「体がだるい」その他と続きます。
しかし、うつ病にはもう一つ、大事な症状として精神症状があります。「気力がない」「考えがまとまらない」「原稿をおこしても文章ができあがらない」「意欲がない」などの精神的な症状です。うつ病には二つの症状があり、身体症状と精神症状の両方を表す場合が実際に多いのです。
ところが、実際にお医者さんのところに来たときにほとんどの患者さんが言われるのは、「身体の症状がある」ということです。実際に診断を確定するポイントとして患者さんの訴えを聴取してみたとき、自ら訴えてくるの...