●多剤併用という問題
ひもろぎ心のクリニックの渡部と申します。よろしくお願いします。
うつ病をテーマとしたお話の3回目ですけれども、多剤併用の改善のwebアプリの「アン‐サポ」をご紹介します。精神科の中でいま一番問題になっているのが、たくさんのお薬を使っている多剤併用ということです。
われわれは1剤、2剤とか、平均2剤ちょっとぐらいで治療していますけれども、実際非常にたくさんのお薬を飲んでいる方が、セカンドオピニオンを求めてわれわれのクリニックに来られています。ここに今スライドを示していますが、実際ある精神科、心療内科で処方されている例で、見てみますと、大体11剤の薬を飲んでいます。実際にCP換算値で見てみると、向精神薬の換算値で1900ミリグラム、それから抗うつ剤の換算値でいうと150ミリぐらい、抗不安薬の換算値、ジアゼパムの換算値60ミリグラムということで、非常にたくさんの薬を飲んでいる方がいらっしゃいます。
実際にこの方が薬局に行って、「こんなに薬を飲んでも死なないんでしょうか。大丈夫なんでしょうか」と聞かれたときに、薬剤師さんは何と答えていいか分からなかったというぐらいに、非常に数が多いということです。これは、何も精神科医がたくさん薬を飲ませたいというのではなく、症状をよくしたいという表れでしているのでしょうけれども、やはりたくさんの薬を併用されている患者さんもおられるということです。国は、数を減らすということで薬剤規制を最近行うようになりましたが、非常にたくさんの薬を処方されていると実感している人が多いのではないかなと思います。
●「スケール」で患者の状態を把握
われわれは、自己記入式のうつ病と不安症状のスケールを持っています。これは、私たちが大体10年ぐらい前から外来の患者さんに用いているのですけれども、このように自分でデータとして、毎回毎回受診した時に症状を書いて、自己記入式で行っています。いま外来では、患者さんがiPadを使ってデータベースに入れています。そうすることによって、ご本人も今どういう状態になっているのか、あるいは、薬局でもクリニックの受付でも、この患者さんが今日どのぐらいの状態で来ていて、次に来てくれる時によくなっているのか悪くなっているのかを瞬時に分かるようにしたのが、われわれのクリニックで独自につくった自己評価尺度です。これを使って患者さんの症状の定量化を行っているということです。
●データ集積で難しい治療の鑑別診断も可能に
実際、このスケールを使って何が役に立つかというと、ここに長年にわたって患者さんの経過を追ったデータがあります。外来の患者さんがたった1回記入しただけでは大したデータではないのですが、それを毎回来るたびに記入したり、あるいは、われわれはもう10年間ぐらいのデータを蓄積していますが、その経過を平均して見てみますと、大うつ病と双極性障害という、鑑別が難しい患者さんの治療経過が一目瞭然で分かるということです。
ここに表しているグラフの上の方の経過は、大うつ病性障害の患者さんで、うつのスケールと不安のスケールを示しています。白抜きになっているのは健常者で、われわれの職員のデータをとったものです。それらのデータを見ていると、大体8週間ぐらいでうつの症状を治療し、よくなっています。不安とうつの症状を見てみますと、うつの方が重くて不安の方が軽いということで、それに合わせて治療すると、たった8週間でよくなるということです。
下の図は、躁うつ病、双極性障害の患者さんの経過です。ご覧のとおり、うつとは全然様相が違って、大体5カ月間ぐらいで治療がやっと効いてよくなっています。ただ、うつの症状は、この赤いグラフの方がうつのスケールですが、大体5カ月ぐらいで正常値になるのですが、ブルーで示している不安の症状というのは、実はずっと残存しているということです。
実はこの特徴が大うつ病性障害と双極性障害の違いであって、われわれのクリニックでは、たくさんのデータを集積することによって症状の違いが出てきているのです。スケールもたった一つや二つのデータでは物事を言えないですが、たくさんのデータを集積すると治療の鑑別診断ができるのではないか、と考えています。
●スケールが示す多剤併用の影響
この次のグラフは、スケールを使って、われわれがある1カ月のデータを切り出したものです。たくさん飲んでいる薬の数を横軸にとって、縦軸にわれわれがつくったスケールを見ているのですが、薬剤数が多くなればなるほど、うつと不安の症状が悪化している、というデータが出てきます。これは一点には、症状がよくならないから薬を乗せていったと考えられるかもしれないですけれど、たくさんの薬を飲んで...