10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

ロシアのシリア空爆にみるプーチンの大国戦略

混沌のシリア情勢を読む(1)ロシアのシリア空爆

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
2015年9月30日、ロシアによるシリア領土への空爆が始まった。しかし、そもそもシリアの内戦で解決すべき政治問題とは何かについて、国際社会は合意を見ていないと、歴史家・山内昌之氏は言う。シリアを挟んで対決しているのは誰なのか。そして、プーチンの考えるロシアの大国戦略とは。(全4話中第1話目)
時間:11:08
収録日:2015/10/05
追加日:2015/10/22
ジャンル:
≪全文≫

●シリア内戦が解決すべき政治問題とは何か


 皆さん、こんにちは。

 今日は、ロシアによるシリア領内への空爆を題材に、ウラジーミル・プーチン大統領の考える新たな大国観や大国戦略とも言うべきものについて、少し語ってみたいと思います。

 そもそもシリアの内戦において解決すべき政治問題とは、一体何なのでしょうか。いかにして難民の悲劇を終わらせればいいのでしょうか。こうした基本的な問題について、実は国際社会はほとんど同意をみていないというのが現状です。こうした国際社会の不一致、特に米欧とロシア・イランといった二つの勢力の間の不一致を象徴するのが、今回のロシアによるシリア領土への空爆の行使でした。これは、1979年のソ連軍によるアフガニスタン侵攻以来の、中東の独立主権国家に対するロシアの公然たる軍事行動に他なりません。


●「二つの敵」論を繰り返す米欧に比して


 米欧は、「アラブの春」で決起した国民に対してテロや虐殺も辞さず、25万人のシリア人を死に追いやったバッシャール・アル=アサド大統領の独裁政権こそを、問題だと考えてきました。現在はアサド体制から新体制に至る移行期の暫定政権であるにせよ、「アサドのいないシリア」が基本条件であることが、アメリカと西欧の考えだったのです。

 ところが、アサドと対決するIS(イスラム国)が出現しました。これを文明論的な最大の脅威と見なし、ISとも戦う米欧にとっては、アサドとISを同時に打倒し、消滅させるための具体的なシナリオも手法も、示すことができていません。ですから、米欧は「二つの敵」論を、マントラ(真言)のように繰り返している状態です。

 彼らに比べると、ロシアの立場はもっと簡単で、シンプルそのものです。ISは米欧とロシアにとって共通の敵であり、文明論的な脅威である。そうである以上、各種の反アサド運動は忘れ、アサド政権そのものと結束することも辞さずに「アサドのいるシリア」を受け入れてISに対して対抗するべきだ。これがロシアの考えです。

 この間の大規模な難民の出現や彼らのヨーロッパへの到来を見るに及んで、米欧の中にも、アサドとの対決よりもIS排除を先決問題だと考える人たちが現れました。今やアサドの過去を問い、なぜ今回のような事件が起きたのかの政治責任を追及してアサドと対決することは後回しでよいということです。実際にアサドの力は弱くなっており、今後も弱くなると予想される。であれば、彼の政治責任については、ISを打倒した後で検討すればよいという考えに他なりません。


●反アサド勢力の弱体化を狙うロシア


 実際には、アサドとシリア正規軍の実情は、ISや他の抵抗運動との消耗戦の結果として多くの欠員や多大な損害を出し、すでに補填が不可能なまでの弱体ぶりを露呈しています。

 そしてロシアは、もともとロシア海軍が石油や食料等を補給するための「泊地」であった地中海の沿岸にあるタルトゥスという町を、今や本格的な海軍基地にしようと工事を進めています。さらに地中海に面したラタキアという町では、本格的な軍事空港として空軍に使用されているラタキア空港の脇に新たなヘリコプター基地が新設されたことも、航空写真等々で確認されています。

 これらの行為は、もちろん全く偶然ではありません。それどころか、今回のロシアによる攻撃目標は、彼らが名指したISだけではなかったのです。米欧が財政・軍事面で支援している反アサド勢力、中でもシリア国民軍やシリア国民会議といったグループの結集する抵抗拠点も、ロシアの攻撃を受けたと伝えられています。

 つまり、米欧がこれまでアサドとISを同時に敵視し対峙してきたように、ロシアもISと反アサド抵抗運動を同時に等しく弱めたい、消滅させたいと願っていることは、否定できないと思います。


●シリア問題会議を招集したプーチンの政治外交とは


 しかし、今回のアサド政権の和平関与を認めず、4年間にわたる一連の内戦の責任を取るべきだとする米欧と違い、ロシアには反アサド勢力をも暫定政権に受け入れる用意があります。彼らは、ISを除いた本格的なシリアの再建前の移行期においては、アサドと反アサド勢力が協力する用意があると考えるようになっています。現在のところ、ロシアと米欧との間にはここでも大きな違いが、まだ解決できないままに残っています。

 プーチン大統領は、シリア問題に関するコンタクトグループの会議を、2015年10月末に首都モスクワに召集する意思を明らかにしました。そこには、中東からトルコ、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダンなどが参加する運びになっています。

 このようなプーチンの政治外交は、単純化して言うなら、プロイセンの軍事戦略家であったカール・フォン・クラウゼヴィ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。