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ロシアの軍事干渉はイランからアサド政権を守るため

混沌のシリア情勢を読む(2)ロシアの大国戦略

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
「全ロシアの皇帝」の称号を贈られるピョートル1世(Boris Chorikov画)
シリア問題へのロシアの干渉の本格化は、一体何を意味するのだろうか。シリア軍隊救出、アサド政権救出がうたわれているが、何から、そして何のためにかは明らかではないと、歴史家・山内昌之氏は言う。前回に引き続き、中東干渉に潜むロシアの大国戦略について、さらに歴史的な見方で掘り下げていただく。(全4話中第2話)
時間:11:14
収録日:2015/10/05
追加日:2015/10/26
タグ:
≪全文≫

●シリア軍事干渉で、ロシアは何を守りたいのか


 皆さん、こんにちは。今回は、前回に引き続きシリアに対するロシアの空爆の意味について、さらに続けて考えてみたいと思います。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のシリアへの軍事干渉は、アサド政権を救うためのものだと言われています。兵員の欠如や補給の欠乏など、さまざまな点で活力を失い、国防軍としての能力を失ったシリアの軍隊を救い、ひいてはシリアのアサド政権を救うためだというのです。しかし、それではいったい誰から、何のためにこの政権を救うのかということについては、実はあまり語られていません。

 常識的に考えれば、IS(イスラム国)の脅威から救うのでしょうし、シリア国内の反アサド各勢力の脅威から救うということなのでしょう。ここまでは常識的な理解ですが、私はもう一つ別な側面があると考えています。今回のプーチン率いるロシアの軍事干渉は、アサド政権を別な脅威であるイランから守り、ロシアの中東権益を守る意図が潜んでいるという見方です。


●イランがアサド政権救済に向かう理由


 しかし、皆さんはこうお尋ねになるかもしれません。「イランは、シーア派の部隊であるヒズボラや革命防衛隊などを通して、アサド政権を同じように助けているではないか。そういう意味では、イランはロシアと協調しているのではないか」。それは、至極もっともなお尋ねであると思います。

 その理由として私が考慮したいのは、まず第一に、イランがこれまでアサド政権を救うために費やしてきた軍事・財政力が260億ドルに上ると伝える資料です。この260億ドルを費やした代償は何かということです。どこの国も、全くの代償抜きにただで金をくれるわけはありません。そこには必ず何らかの代償が伴うわけです。

 イラン側に考えられる代償は、シリア国内のシーア派の救出です。スンナ派の多数派(反アサド政権)によって支配されている地域のシーア派の住民たちを救い出すために、自分たちシーア派やイランの別働隊、革命防衛隊やヒズボラが占領している地域のスンナ派の住民を、交換で救う。すなわち、一種の住民交換(population exchange)あるいは領土の交換(territory exchange)を、イランは画策しているのではないかといった観測が出ています。

●イランの行為への警告とアサド政権へのテコ入れ


 問題は、シリアの内政や主権に関わる住民や領地の交換という行為について、イランが実質的にバッシャール・アル=アサド大統領の頭越しの交渉を行っている事実が最近明らかになろうとしていることです。これは、シリアの主権国家としての存在やアサド大統領の存在が無視されたことを意味します。

 例えば、首都ダマスカス近くにザバダニという地域がありますが、そこのスンナ派住民と、イドリブという地域の二つの村のシーア派の住民交換を図ったという観測が出ています。

 ロシアからすれば、自らの知らないところでのシリアに関する重大問題の取り決めについて、協力者とはいえイランの勝手を許すつもりは、さらさらありません。こうしたイランの行為に対する警告、そしてアサド政権に対するテコ入れという意味を込めて、今回の空爆は行われた。そういう解釈もあるのです。


●イランのグローバルな影響力を封じる決意


 第二は、イランの置かれているもう少しグローバルなポジションです。ご案内の通りこの夏、ウィーンにおいてイランの核開発を制限し、遅らせるための最終合意が締結されました。この中で、テヘラン政府とワシントンとの間には、一種のデタント(緊張緩和)的な機運が生まれ、進行しています。

 それに対してロシアは、自らの重要権益であるウクライナとシリアに関わる事柄についてのデタントは許さないという決意を、意思だけではなく姿勢によって明白に示したということです。つまり、イランがアメリカと手を組んだり、妥協したりするためのカードとして、ウクライナはもとより、シリアについてもそれを使わせないという強い意思を、プーチンが示したということに他なりません。

 イランは、すでにレバノン、イラク、湾岸地域といったシーア派住民が多く住む場所において、その地の組織であるヒズボラや、イランから送り込んだ革命防衛隊を介して、影響力を拡大しています。そうしたイランの野心は、イランの北にあるカスピ海西側の産油国であり、同じシーア派のアゼルバイジャンを介して、ロシア国内にも伝わりかねない。アゼルバイジャンの北はすぐ、ダゲスタンというロシア国内になりますので、この地域のムスリム住民の間にイランの影響力が浸透してくる危険を許さないという決意が、一方において示されたものと考えられます。


●アサド大統領がキリスト教徒に示唆した道

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