10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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内戦とは残酷さがさらなる残酷を生むメカニズムを内包

混沌のシリア情勢を読む(4)内戦の文法

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
奴隷解放宣言の草稿を作るリンカーン大統領
シリアの内戦は、外国干渉が大きく介在し、今や泥沼化の様相を呈している。歴史学者・山内昌之氏は、そこには「内戦の文法」があると言う。その文法ゆえに多くの内戦は複雑化し、外と結び付けば戦争へという不幸なプロセスを経てしまうのだ。本シリーズ最終話では、人類が自ら生み出した不幸を歴史的文法という山内氏独自の観点で解説する。(全4話中第4話目)
時間:11:00
収録日:2015/10/05
追加日:2015/11/02
ジャンル:
≪全文≫

●シリアに見る内戦の文法


 皆さん、こんにちは。

 シリア、あるいはシリアの内戦におきましては、これまでの世界史のどの内戦にもまして、外国の干渉、外国の存在というのは、古代ローマやスペイン、ましてや日本における南北朝や戊辰戦争といった、そうした内戦と比べて、はるかに重要なものとなっています。シリア情勢の一部は、国内紛争、内戦というよりも、むしろ外部の対立する国々、すなわち、アメリカ、ヨーロッパ対ロシア、あるいは、ロシア、イラン対米欧のブロック、こうしたある種の代理戦争の様相を呈しているかと思います。

 イギリスのフィリップ・ハモンド外相の表現を借りますと、彼は英国の外交の責任者でありながら、「欧米の指導者たちは、もはやどちらが善でありどちらが悪であるか、どちらが善であるがゆえに支援するべきかどうかが分からなくなっている」と、このようなことを言ったことがあります。これはわれわれ分析者にとっても、なかなか簡単なことではないわけです。

 内戦というのは、最初素朴な意図から始まっても、やがて暴力や衝突がエスカレートし、そして、それが武力衝突から互いの殺し合いに発展する。それが戦いという形を取れば内戦になり、さらにそれが外と結び付けば戦争になるという、誠に痛ましいプロセスを経るのです。言ってしまいますと、そこには内戦のグラマー(文法)とでも言うべきものがあるのです。


●南北戦争にみるリンカーンの正義と狡猾さ


 かつて触れたマリウスとスッラ、あるいはカエサルとポンペイウス、このいずれが白でありいずれが黒か、どちらが正義でどちらが不正義なのかというようなことについて、簡単に断定することはできません。大体、カエサルびいきの人が多い、あるいは、マリウスの方がなんとなく善玉っぽい、だからマリウスやカエサルが善だというのは、その個人の主観によるものです。例えば、フランスにおけるカトリックのロイヤリスト(王党軍)と革命派がぶつかったフランス大革命のときのヴァンデの乱。このヴァンデの乱でどちらが正しいのかといっても、これは政治的な立場というものを入れないと、簡単に断言することはできません。

 あるいは一番近くの例で、映画なども考えてみればお分かりのように、南北戦争は一体どちらが正しかったのかということです。われわれは、あたかも奴隷解放宣言をしたリンカーンの目を通して南北戦争を見ますから、奴隷解放宣言をしたという、この点において優位性を持つリンカーンの方が正しいと考えがちでありますが、これを南部の方の目から見れば、リンカーンは、産業資本家の利益のために自由貿易主義、保護主義を批判し、自由貿易主義の立場に立って戦争を仕掛けてきました。しかも、リンカーンは、実に類いまれな総指揮官として、市民の間、一番弱い人間たちを屈服させれば戦争は終わるという、非常に巧妙かつ狡猾なテーゼを発見しました。そこで、リンカーンは、職業軍人同士の争いである内戦を、さらに一般の市民、老若男女にまで広げることによって、老若男女の中でも婦女子や老人、子ども、こうした人たちを犠牲者として巻き込み、屈服させたということがありました。


●一元的な見方では捉えられない歴史の善悪


 そうすると、こういう戦争をした北軍、あるいはアメリカ合衆国のリンカーン大統領は善だと言えるのかどうかということも問題になります。南軍だけが悪だという、そういう単純な見方は、少なくとも局外者であるわれわれは見るということはできません。戊辰戦争も同じ...
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