10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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「わしの言う通りにやるんやったら君はいらんで」 

松下幸之助を語る(2)経営者としての悟り

江口克彦
前参議院議員
情報・テキスト
かつて赤字続きだったPHP研究所を引き継ぐことになった江口克彦氏。2カ月ほど経った頃、毎週行う経営報告の席上で、幸之助の「鬼の形相」を目の当たりにする。「わしの言う通りにやるんやったら君はいらんで」。この一言から、江口氏は、経営者としての悟りを開いたと話す。幸之助の言葉から、江口氏は何を学んだのか。(全5話中2話目)
時間:07:41
収録日:2015/09/29
追加日:2015/11/23
≪全文≫

●松下幸之助が見せた「仁王」の表情


 そのころのPHP研究所は、売上9億円、しかも赤字でほとんど借金経営で、内部留保もほとんどゼロに近かったという状態でした。松下幸之助さんが買ってくれた株を、そのまま株券として持っていたぐらいなものでした。私の前に経営をやっていた人は、その経営状態を毎月報告するのですが、赤字ですね。でもその度に、松下幸之助さんが「いや、しゃあないな」と言うのですね。「みんな若い人たちは一生懸命やってんやから、しゃあないな」と。それで過ぎていました。

 それで私も、前の人は月1回だったのですが、私の場合は1週間ごとに、先週はこうでした、先週はこうでしたと、毎週の報告に切り替えたわけです。私の前の人が赤字、赤字、赤字で、「しゃあないな、しゃあないな。みんな一生懸命やっているから」ということだったので、私も同じように報告をしていました。でも当然のことながら赤字ですよね。売上もそんなに伸びているわけではありませんから。そういう報告を毎週やっていたのですね。

 それで2カ月ほど経って、6月の半ばを過ぎた頃、いつもと同じように「これだけの赤字です」と報告しました。売上もこれだけで、今月はこれだけですというような報告をしていた。その時もいつもと同じように言うのですね。「みんな若い人たちは一生懸命しているから、それはそれでしゃあないな、仕方ないな」ということを言う。

 それはいつもの通りですから、私はその経理の主要簿をパタパタしまって整理しながら、ふいっと顔をあげたら、松下幸之助さんが眉間にしわを寄せて、今思い出してもとても怖かった。仁王さんのような顔をして、私をにらんでいるのですよ。その時の松下幸之助さんは、ベッドの上に座っていたのですね。松下幸之助さんは、どちらかというと体が弱かったですから、1年のうち半分ぐらいはベッドの上で、報告を聞いていました。その松下さんがベッドに座って、本当に仁王のように眉間にしわを寄せて、私をにらみ下ろしているわけです。


●「わしの言う通りにやるんやったら君はいらんで」


 私は、何事かと思ってびっくりしました。そんな表情を初めて見ましたから。茫然自失して何だろうかと思っていたら、松下幸之助さんが一言、私の顔をにらみながら「君な、わしの言う通りにやるんやったら君はいらんで」と、こう言ったのです。

 それにはびっくりしましたね。「わしの言う通りにやらんかったら、君はいらんで」と言うのだったら分かりますよ。でも言われたのは「わしの言う通りにやるんだったら、君はいらん」ということですよね。その言葉が、私の頭の中でぐるぐるぐるぐる回りました。松下幸之助さんの言う通りにやったら私はいらないというのは、どういうことなのかと。

 私は、この一言で、私なりの経営者としての悟りを開いたわけです。要は、仕事すなわち経営というものは、結局、松下幸之助さんからの指示があって、その通りにやる、それでは駄目だということなのです。それは経営者、指導者ではないのですね。指示があったものに、それ以上の成果を上げて持ってこいと、そういうことを言っていたのではないか。赤字、赤字で、みんな頑張っているから仕方がないと言われても、それでよしとするのではなく、松下幸之助さんが思っていることに、さらにプラスした経営というか、仕事というものをしないといけない。だから、Aと言われたらAをやるのではなくて、Aプラスアルファにして返す。あるいはまた、Bと言われたら、BプラスCということで...
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