●「三バンが必要」―青筋を立てて怒られた/野田佳彦
真剣に怒ってくださるということは、真剣に思っていただいているということですね。記録に残っているか分かりませんけれど、政治志望のコースが定まってきたところで、誰かは忘れましたけれど、ある塾生があるとき、「政治には、地盤、看板、カバンが必要ですよね」と、三バンが必要だということを言い出したのです。なかなかそれをつくるのが大変ですよね。やはり誰かの後継者になって地盤を引き受けるとか、看板をいっぱいもつとか、ちゃんとお金をためてカバンをつくるとか、そういうところからやる。あるいは、誰か一緒になってからやるという形で、「地盤、看板、カバンというのをつくっていかないと、選挙にも出られないし、政治は変えられないんじゃないか」と言ったのですが、その時は青筋を立てて怒られた記憶があるのですよ。
ちゃんとした円卓室ではない所だったかもしれませんけれども、その机をボンボンたたいて、「それじゃ、従来の政治家と同じじゃないか」という言い方をされましたよね。
そういう足りないものもありながら、自分なりにプロセスをつくっていく。誰かからもらうとか、そういう発想では駄目だということで、怒られた記憶があります。ですから、時折、青筋を立てて怒られる瞬間があるのです。
85歳から、少なくとも塾生の間は90歳までの間のお付き合いですけれども、ご高齢で、30年前の80代後半の方ですからね。しかも経営の神様に怒っていただくと、本当に縮み上がるのですけれども、でもそれだけやはり情熱を持って接していただいたということですね。
今は笑って思い出して言えますけれど、当時はもう本当に泣きたくなりましたよ。強烈なスパーリングでしたね、本当に。政界でも、文化人でも、これほど大きさを感じた人物はいないのです。そのとても大きな存在の人に怒っていただきながら、スパーリングで殴り倒されたというのは、得難い経験でしょうね。直接薫陶を受けたということは、本当に表現しにくいのですけど、向き合ってもらって、怒ってもらって、ほめてもらってということの繰り返しですからね。
●今の政治家は政治を知らない
本当の政治を知らんね。政治学は知っているけれど、本当の政治は知らないと思う。経済学をやっても、大学で経営学をやっても、焼き芋屋一つできない人がいる。「何々学」というもの、これは非常に大事だけれど、これを乗り越えないといけない。そういう境地にならないといけない。
●政治技術は参謀に任せろ
ここでやるのは、政治的見識、識見というもの、それを養う。いくらその政治的技術や政治的テクニックというようなものが大変うまくなったといっても、それは秘書のする仕事。本当の政治家というものは、将来、この国はどうするか、将来の教育はどうするか、将来の産業はどうあるべきかというようなことを非常に高い視野から見て、是非を決定する。そういうことができるのが本当の政治家というもの。そういうことを諸君に勉強してもらおうと思う。
枝葉末節は小物の政治家でもいい。本当の政治をやらないといけない。本当に日本の将来はどうあるべきか、百年先、2百年先、どうあるべきかということを考えてやらなければいけない。そういうことを分かるように、諸君にやってもらいたいと思ってやっている。
だから諸君も、政治を志す以上は、政治の技術とかその常識とか、そういうことは問題だけれども、しかしもっと高いものを持っていないと具合が悪い。だから、政治技術がうまいだけじゃいけない。政治技術は、参謀とかいくらでもいる。政治としての根本は、全国民の幸せ。国家の興隆というものに対してはどういうことが一番大事かと。
●塾は若者の政治家への登竜門に
もう2年ほど前に、僕は大学の学生に十数人集まってもらって、座談会をしたことがある。その時に「あんたは将来何になんねん」と尋ねたら、皆会社に入ってこうやるとか、自分で商売するとか、皆目的があるわけだ。政治家になるという人は一人もいない。それで私は驚いた。政治というものはやはり日本の一番大事なもの。大事なものなのに、いま集まっている15、6人の学生で、「私は政治家になろうと思います」という人は一人もいない。それで私はその時に、非常にショックを受けた。
これはいけない。こんなことでは日本の政治はよくならない。少なくとも十数人、それだけの大学の学生が集まったら、私は将来、なれるかなれないか分からないけれども、政治家になり、政治をやっていきたいと思うと、こういう人が一人か二人ぐらいいたら、僕はこの塾をやっていたか分からない。
●塾は志を磨く場所/野田佳彦
日本というのは、私はやはり基本的には素晴らしい国だと思うのです。素晴らしい国に...