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ヨーロッパ首脳は難民とテロ対策で精一杯

難民とテロ問題で揺れるヨーロッパ経済

植田和男
共立女子大学国際学部教授/東京大学金融教育研究センター センター長
情報・テキスト
「難民とテロの問題を受けて、いまヨーロッパが難しい時期を迎えている」と東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏は語る。それはどういうことなのか。植田氏がヨーロッパの現状を多角的に分析する。
時間:09:33
収録日:2015/12/15
追加日:2015/12/24
≪全文≫

●ヨーロッパ首脳は難民とテロ対策で精一杯


 最近話題になっているヨーロッパの難民問題、テロ問題と、EU、ユーロ、ヨーロッパの金融政策について、簡単にお話ししたいと思います。

 ご案内のように、大量のシリア難民がヨーロッパに流入し、ひと月くらい前にパリで深刻なテロが起こりました。いろいろと話を聞いていますと、その後、ヨーロッパの首脳たちはさまざまな大事な会議で集まっても、誰もが難民とテロ対策の議論で精一杯で、他の大事な議論にほとんど話が進まないようです。もちろん、先週末には地球温暖化の会議があり、ある程度の進展を見たようですが、さまざまな会議をおおまかに見るとそういった傾向があります。ギリシャ情勢、ヨーロッパの預金保険制度といった重要テーマを含め、ほぼ全ての議論がいったん停止になっています。さらに、現在はシリア経由の難民が問題視されていますが、リビアなどの北アフリカ経由、あるいは東ヨーロッパルートも懸念されています。今後どうなるか、余談を許さない状況にあります。

 こうした中、一つ懸念される大きな変化が、ヨーロッパにおけるドイツの地位に低下傾向が見られることです。直接の原因は、アンゲラ・メルケル首相がダブリン協定を反故にしてまで大量の難民を受け入れたことがテロ危機拡大の一因になったという認識が、ヨーロッパ中にあることです。


●ヨーロッパは財政緩和の方向へ


 このような情勢が経済政策にどういった影響を及ぼしているかといえば、財政政策は明らかに緩和の方向に向かっています。難民とテロ対策という名目で、すでに多くのプロジェクトが進行しており、その一部はEU財政安定成長協定( Stability and Growth Pact)の枠外で行う方向で話が進んでいます。財政支出を増やさないと、右寄りの政党が票を伸ばしていくのではないかとエスタブリッシュメントが恐れているからです。財政政策には当面、緩和の力がかかり続けるでしょう。

 同様のことが金融政策にもいえます。12月の初めにあった前回のECB(欧州中央銀行)理事会で、市場予想をやや下回る決定しかなされなかったことも、ヨーロッパ全体を覆っているこうした空気が影響しているという見方が有力です。ECBのマリオ・ドラギ総裁は、今回の理事会の前の講演などで、思い切ったことをやるという趣旨の発言をしました。今回はその通りにならなかったわけですが、実は過去にも似たような発言を何回かしています。一番有名なのは、2012年の夏の発言です。ユーロを守るためには何でもすると発言して、ユーロ圏の緊張を大きく和らげました。このように理事会の前に発言して市場に織り込ませ、理事会が賛成せざるを得ない方向に持っていくのが、彼の常套手段です。しかし、今回はうまくいかなかったのです。

 その理由はおそらく、先ほどお話ししたようにドイツの地位が低下しているから、そしてヨーロッパの首脳をはじめとした主な政治家が、難民とテロ対策で忙しいからでしょう。ドラギ総裁はこれまで、どの程度表立って行ったのかは分かりませんが、メルケル首相にブンデスバンクの反対派を抑えてほしいといったお願いをする一方で、自分の希望を講演で発言して流れをつくってきたのです。しかし、今回はメルケルもそうした対応をしている時間がなく、ブンデスバンクを中心とした反対意見を抑えることができなかったために、今回のECB理事会では、ドラギ総裁は思い切った政策を取れなかったのです。このようにECBのマネジメントが難しい問題を抱えていることもあって、当面、強い金融緩和基調が続くことは間違いないと思われます。


●ギリシャ問題が再浮上するリスクがある


 最後に、もう少し広い視点でいくつかの問題に触れたいと思います。先ほどユーロ各国は難民対策などで忙しいために、他の問題に手が回っていないと申し上げましたが、その問題の一つが「ギリシャ問題」です。

 今年の夏に、ユーロが新たな支援を行う一方で、ギリシャ側が改革を進めることで合意しましたが、その後、改革はまったく進んでいないようです。いまのところ、ギリシャの改革をチェックする余裕がヨーロッパ各国の首脳にはありません。しかし、今後、どこかのタイミングでヨーロッパの首脳陣が落ち着いたとき、ギリシャ側の改革が全然進んでいなければ、いわゆる「グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)」、あるいはそこまでいかないにしても、ギリシャ問題が再浮上してくるリスクがあると、かなりの人が認識しています。当然、その先には、ユーロ全体の安定性の問題があります。

 ユーロは通貨同盟ですが、十分な財政同盟がないために通貨同盟の維持が難しいといわれてきました。さらに、ここにきて一段と新しい問題が出てきています。通貨同盟と並ぶヨーロッパ各国の理...
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