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大きな成果を見せたCOP21と日本の存在感

COP21の成果と日本の役割

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
COP21で地球温暖化防止に向けた世界の動きがまとまったことは人類にとって非常に大きな成果だと、東京大学第28代総長で株式会社三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏は評価する。しかし、日本に対しては苦言を呈している。日本が果たすべき役割について語る。
≪全文≫

●大きな成果を見せたCOP21


 今度、COP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、二酸化炭素を減らして地球温暖化を防止しようと世界の動きがまとまったということは、人類にとって非常に大きな成果だと思っています。私は個人的にも20年ほど前からビジョン2050を提案していますが、(COP21は)その流れに沿ったもので、大変いいことだと思います。

 ビジョン2050は、例えば自動車を持つ人がそのことによって普段受けられるサービスを我慢することではなく、そうしたサービスを受けながら省エネルギーでエネルギー効率を上げていくことと、再生可能エネルギーを導入していくことの二つが核なのです。それに加えて、経済という面から、質あるいはサービス産業への移行によってCO2を削減しようということで、極めていい話なのです。


●日本が実践してきた「デカップリング」


 その中で少し残念なのは、日本の存在感がほとんどなかったことです。実は、日本は本当に素晴らしいことをすでにやっているのです。1973年、オイルショックが起こったとき、日本は産業を中心に省エネルギーを大々的に進めてきました。当時のGDPが大体200兆円です。今が約500兆円ですから、2.5倍に増えているわけです。

ところがエネルギーの消費量は1.25倍で、25パーセントしか増えていません。これは、今回のCOP21に合わせて言われた「デカップリング」と関係しています。「デカップリング」とは、経済は伸びてもエネルギーは伸びない、あるいは大きくは伸びないということで、重化学工業中心の時代、経済の成長とエネルギーの増大はほぼ1対1の割合で進んできましたが、今は省エネやサービス化による「デカップリング」の時代だと盛んに言い出しているのです。この「デカップリング」をきちんとやった国が日本なのです。そういったことが議論の中でほとんど反映されなかった。それは、日本人がこのことを分かっておらず、主張もしないからです。


●日本に学べば、中国は80パーセント削減も可能


 では、そのことにどういう意義があるか。今度の中国の削減目標値は、GDPに対してエネルギーの割合を60パーセント減らすことですが、先ほどお話しした「日本がGDPを2.5倍にしてエネルギーを1.25倍にとどめた」というのは、GDP当たり50パーセント減らしたということです。中国は今まさに重化学工業が中心で、これまで日本がやってきたことを見ています。しかも、現在はすでにエネルギー効率の高い技術があり、これからもさらにエネルギー効率の高い技術が出ていくわけです。これらのことを考えると、私は、中国のGDPに対するエネルギーの割合として80パーセントは減らすことができると思います。

 これが、過去の歴史をよく見て、将来の技術の動向を考え、未来を予測するということの意味で、それを先導できるのは日本のはずです。個人的なことを言って口幅ったくはありますが、私はこのことを主張してきたつもりです。それを世界に主張できないのは、極めて残念です。


●「プレッジ・アンド・レビュー」で2℃以内を目指す


 COP21は人類にとって素晴らしい決断です。今回は、「プレッジ・アンド・レビュー」という方式を取り、それぞれの国がこうやりますよと言って、5年ごとにそれを検証していきます。法的な拘束力がないのではと批判する方もいますが、そんなことはありません。先に進めば進むほど、温暖化が人類にとって大変なことだという認識が広がり、また、こうしてやっていくと、CO2は削減できるということが徐々に分かってくるのです。だから、先にいくほど楽になるのです。

 それからもう一つ言えるのは、法的拘束力を持たせるなどということをしたら、多くの国、特にアメリカがおそらく国内で批准できないということです。共和党と民主党との対立をはじめ、いろいろな国内問題を抱えています。ですから、私は、法的拘束力ではなく、2℃以内に削減、できれば1.5℃まで視野に入れるという大きな目標を持って、プレッジ・アンド・レビューという形でスタートしたというのは、人類の知恵を信頼できるということで、大変いいニュースだと思いました。
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