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アジアに対する謝罪や和解を求めるメッセージの決定版

「村山談話」とは何だったのか(1)二つの大きな意義

若宮啓文
元朝日新聞主筆
情報・テキスト
日本の歴史認識を問う際に、焦点となるのが1995年の「村山談話」である。若宮啓文氏が、この村山談話がもつ二つの大きな意義を説きつつ、談話の継承がアジア外交にとっていかに大切であるかを浮き彫りにする。
時間:10:36
収録日:2014/01/17
追加日:2014/04/03
カテゴリー:
≪全文≫

●「村山談話」をめぐる安倍首相のずれ


日本とアジア、とりわけ中国や韓国との和解の問題で、靖国神社の参拝問題が大きくクローズアップされているという状況ですけれども、もう一つ、「日本の歴史認識を問う」というときに問題になるのが、「村山談話を受け継ぐのか、それともこれを見直すのか」という問題があります。このことについてお話したいと思います。
最近も、中国や韓国の首脳たちは、「村山談話を消し去るようなことをしたら許さない」とか、「そういうことであれば、もう日本との関係は修復不可能だ」というような趣旨のことを言っています。特に、韓国の朴槿恵大統領は、今年になってからもそういう発言をしております。
なぜこれが問題なのかと言うと、安倍総理が、実は村山談話に従来非常に消極的な立場をとっており、たびたびそういう立場を示してきましたからです。今回総理大臣になる前にも「できれば村山談話を見直したい」と発言し、もう一つ、従軍慰安婦にまつわる「河野談話」、河野官房長官の談話というのもあるのですが、この二つについて、安倍さんが懐疑的な発言をしてきたものですから、これに中国や韓国は非常に反発、あるいは懸念を示しているということなのです。

●「村山談話」がもつ二つの意義 -1.明確な謝罪表明


では、村山談話というのは、そもそも何なのか。これは、 村山富市さんという総理大臣が、1995年、戦後50年のタイミングで出した談話です。村山富市さんは、当時の日本社会党の委員長でした。日本社会党は今はもうなくて、その流れで社民党という政党があります。今は小さくなってしまいましたが、日本社会党は戦後、自民党に次ぐ第二の政党として大きな存在感を持ってきた政党です。長いこと万年野党と言われ、野党第一党できたのですが、この1995年の前の年、1994年に、自民党がその社会党の委員長である村山さんを総理大臣に担いで、もう一つ、新党さきがけという小さな党がありましたので、この3党で連立政権を作ったのです。そうしてできた自社さ連立政権の顔として総理大臣になったのが、村山さんだったのです。村山さんは、戦後50年のタイミングで、過去の戦争責任、あるいは植民地支配をしてきた責任の問題に何かけじめをつけたいということで出したのが、この談話でした。そのさわりを少し読んでみたいと思います。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。
私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明いたします。」

今読み上げただけでもお分かりになると思うのですが、非常に潔い過去への反省の弁、そして謝罪の弁でした。ポイントは、「過去の一時期、国策を誤り」、一時期というのがどの時期かということは明示していませんけれども、イメージとしては、おそらく満州事変以降のことが明確にあったと思います。しかし、植民地支配のことにも触れていますので、そうなりますと、その部分についてはもっとさかのぼって考えているということになります。
そして、「植民地支配と侵略によって」、多くの国々を傷つけたと述べています。植民地支配と並んで、侵略という言葉を明確に使ったわけです。また、「痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明いたします」、あるいはその前段に、「疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め」という発言が入っています。大変潔い発言です。
そういう意味で、内容的に非常に意義があるのです。それまでも、総理大臣が反省の弁や謝罪の弁を断片的に述べてきたことはありますけれども、これほど明確にまとめて述べた談話はないので、いわばアジアに対する謝罪、あるいは和解を求めるメッセージの決定版だったと言っていいでしょう。

●「村山談話」がもつ二つの意義 -2.閣議決定を伴う


と同時に、この談話の特徴、もう一つ大きな意義は、形式にあります。それまでの総理大臣の発言などは、あくまで総理大臣の発言であって、閣議決定を伴ったようなものではなかったのです。しかし、村山談話は閣議決定をしています。しかも、そこには自民党も入っているわけですから、決して社会党の総理大臣が勝手に出した談話ではない、ということです。当時の副総理は自民党の河野洋平さんでしたが、並居る閣僚たちがほかにもたくさんいたわけで、そういう合意のもとで出された談話であったというのが大きな意味を持ちます。
ですから、その後の政権もこの談話を引き継いできたわけです。継承するということを明確にしてきました。今回の安倍政権は、そこのところ...
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