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マイナス金利のきっかけは2015年6月の黒田ライン!?

日銀がマイナス金利政策を導入(1)導入の背景

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
「日銀がマイナス金利政策の導入を決定したのは、やはり円高、株安の影響が大きい」と、シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏は語る。株のプロフェッショナルが、マイナス金利政策導入の背景を明らかにする。(全3話中第1話目)
時間:11:41
収録日:2016/02/04
追加日:2016/02/11
カテゴリー:
≪全文≫

●黒田日銀は過度な円高の修正を行ってきた


 シティグループ証券の高島修と申します。今日は、日銀の「マイナス金利政策」の導入に関する話をします。突然の決定で、私の周りはこの話題で盛り上がっており、私もいろいろなところで話すことが多いため、喉が完全にかれてしまっています。少々聞き取りにくいかもしれませんが、ご了承いただければと思います。

 1月28日、29日に開かれた金融政策決定会合で、日銀がマイナス金利政策の導入という形で追加緩和を決定しました。そこで今日は、(1)日銀が追加緩和を行うに至った背景、(2)いったい何が決定されたのか、(3)今後、為替相場、円相場がどのように動いていくと考えられるか、この三つの観点からお話しします。

 まずは今回、追加緩和としてマイナス金利政策の導入に至った背景ですが、やはり円高、株安の影響が大きいでしょう。いま日銀総裁を務めている黒田東彦さんは、もともと日本の財務省で通貨政策のトップである「財務官」の職責を経験された方です。したがって、ご本人は明確にはおっしゃいませんが、黒田日銀の金融緩和政策は、円安を用いて、日本が長らく経験してきたデフレを克服する政策だと私は捉えており、黒田日銀の金融政策を考えるにあたっては、円相場の動きが極めて重要だと見ています。

 いま見ていただいているグラフは、「名目実効円相場」の動きを示しています。聞き慣れない単語だと思いますが、日本の主な貿易相手国通貨に対する全体的な日本円の強弱感を示すのが、名目実効円相場です。ですから、このグラフにも、ドル・円だけでなく、ユーロ・円、豪ドル・円、韓国ウォン・円、人民元・円などが含まれています。ドル・円相場とは縦軸が逆になっており、上に行くほど円高で、下に行くほど円安を表します。

 この名目実効円相場は、2012年から長期的な円安局面に入りました。ファンダメンタルズ的には、これは2011年の東日本大震災の影響、それに伴う日本の貿易収支・国際収支の悪化が大きく影響しています。その後、2012~13年頃から今度は円安が加速したわけですが、これは、アベノミクス、黒田日銀の強い金融緩和政策を、為替相場が円安要因として織り込んでいったからです。アベノミクスと黒田日銀は、そうして過度な円高の修正を行ってきたのです。2011~12年の一時1ドル75円ほどの円高を修正してきたのが、2012年以降の日銀の動きでした。


●2015年6月以降、ドル安円高基調となった


 2015年6月には、一時125円台までドル高・円安が進みました。実はちょうどそのあたりで、長期的なドル高・円安の流れが止まったのです。ターニングポイントは、6月の国会答弁で、黒田総裁が、民主党の前原誠司議員の質問に答える形で「これ以上の実質円安はありそうにない」と発言されたことでした。そこから足元に至るまで、どちらかといえば円高・ドル安で推移してきています。黒田総裁が、少し円安が行き過ぎたのではという考えを示したことで、市場の日銀追加緩和の期待を後退させたことが、その後、半年近く続いているドル安・円高基調の一つの背景だったと考えられます。

 市場には、この発言を単なる失言とする見方もありましたが、私自身は極めて重視し、今後はドル高・円安に行きにくくなると考えました。なぜ私がこの発言を重視したかというと、この画面にまとめてありますので細かくは説明しませんが、2015年4月、5月頃から、アメリカやIMFが、ドル高・円安に対する警戒感をかなり強めてきていたからです。こうした中で、もともと財務省で通貨政策のトップを経験した黒田総裁が、同年6月に「これ以上の実質円安はありそうにない」と発言されたのですから、国際的な環境が変わってきていることが念頭にあるのだろうと考えたのです。

 また、巷の金融機関系のエコノミストの中には、同じく7月、10月に日本の景気が伸び悩み、原油安に伴ってインフレが弱まってきた際、日銀が追加緩和をするのではないかという思惑が強まりました。そこで私は個人的な見方として、黒田総裁がこれほど円安の行き過ぎを気にしているのだから、追加緩和の可能性は極めて低いと話してきたのです。現に、その後の追加緩和は見送られ、同年6月のドル・円125円は「黒田ライン」という言葉で呼ばれるようになり、それ以上のドル高・円安は期待しがたいという市場のコンセンサスが形成されていきました。


●株安の一因となっている円高を止めなければ


 ところが、長期的なドル高・円安が止まり、円高の動きが強まってきたことで、日本株が下がるという事態が起こりました。

 いま見ていただいているグラフは、ドル・円相場と日経平均の相関図ですが、両者が極めて強い関係を持っていることがお分かりいただけると...
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