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人間の進化の秘密に迫る!脳が異様なほど大きくなった理由

ヒトの進化史と現代社会(3)社会脳仮説とは何か

長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長
情報・テキスト
自然人類学者で総合研究大学院大学副学長・長谷川眞理子氏による、ヒトの進化と現代社会の関係を考えるシリーズ講話第3弾。ヒトは生物の進化史上、あり得ないほど大きな脳に進化したが、それはなぜか? その原因の一つといわれる社会脳仮説について解説する。(全4話中第3話目)
時間:05:47
収録日:2015/12/14
追加日:2016/03/17
カテゴリー:
≪全文≫

●ヒトに固有の能力があるのは脳が大きくなったから


 前回、ヒトとチンパンジーが600万年前に分かれてから、どのようにしてヒトらしさを身につけたのかについて、遺伝的な基盤が解明されつつあり、心理学や認知科学などの面でも、何がヒト固有かということがだんだん分かってきたとお話ししました。

 それはもちろん脳がすごく大きくなったからで、ヒトは素晴らしいことができるようになりました。素晴らしいこともしますが、地球環境をこの規模で破壊できるのも人間だけですけれども、そういう人間に固有の能力があるというのは、脳が大きいからだ、と言われています。


●あり得ないほど大きな脳に進化したヒト


 それはこの図に書いてありますように、普通、動物は体の大きさ、体重が大きくなると脳みそも大きくなります。しかし、それはリニアに体が2倍になったら脳も2倍になるということではなくて、頭打ち曲線になるのです。ですから、体の大きい動物は、相対的に見れば小さい脳になるわけですが、それもリニアにではなく頭打ちの曲線になるということです。

 そこで、人間の仲間である霊長類の体の大きさはどのくらいで頭の大きさはどのくらいか、体重と脳重の関係をグラフにしてみます。霊長類には小さなサル類がたくさんいるのですが、大きいのは、チンパンジー、オランウータン、ゴリラで、これらは非常に大きい大型類人猿です。チンパンジーの体重は大体40キロぐらい。オランウータンは70キロぐらい。ゴリラは100キロを超えます。それでもチンパンジーもオランウータンもゴリラも、脳みそは皆、大体380から400グラムぐらいです。ですから、体重が100キロになってもこういう頭打ちの曲線なのです。それに対して、人間の体重を大体60キロぐらいだとすると、脳は1200から1400グラムなので、このグラフの曲線からするとおよそ3倍の大きさの脳を持っていることになります。

 これは、本当にあり得ないくらい大きな脳がヒトだけに進化したということなのです。進化の歴史からするとヒトの脳がいかに異様に進化したのか、こんなことはめったにあることではないのです。


●ヒトの脳の進化を決定づけた三項関係の理解


 その脳がどうやって進化したかは、これも何百万年前から20万年前に何が起こったかということは、直接は分からないので、いろいろなデータから類推をするしかないわけです。前回「三項関係の理解」についてお話ししましたが、私が何を見ているか、あなたが何を見ているか、そして、あなたの心の中に私の心が見えていて、あなたの心の中に私の心が映っている、あなたが想像しているということを私の頭の中に想像できる、というような、何重もの入れ子構造で心を理解することができるというのは、大変重要な能力なのです。こんなに脳が大きくなって何が良かったかというと、こういう能力を持てたことです。

 その人の心や他人の考えていることは、手に取って見ることができませんので、それを想定することによって相手の心をシミュレーションする。そうやって相手の心を自分もシミュレーションすることで、お互いに分かり合える。そこに、ワンワンもそうだし、「一緒に狩りに行きましょう」とか、「これはコップです」など言葉というものでいろいろなものにラベル付けして表現すれば、伝えることができるのです。


●「思いの共有」に着目した社会脳仮説


 そもそもヒトは単に信号を出しているのではなく、「あなたに心があって、あなたの心を読むことによって、私はあなたの思いを共有している。そして、そういうことをあなたも分かってくれるから、お互いに思いが共有できる」という、この基盤がなければ言語というものは実は働かないのです。言語は単に記号であるのではなく、記号の意味や、欲望、欲求、信念などを、相手が心の中に持っているということをまずは思い、そのことを互いに共有できないと、言語にはならないのです。そういう意味での脳の働きが、ここまで脳を大きくした一つの大きな原因だったのではないかと考えられています。これを、社会脳仮説と呼びます。
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