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情報革命の影響でなくなる仕事と伸びる仕事とは?

情報革命の未来―消える仕事、伸びる仕事

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
情報革命は日本と世界をどう変えるのか? 仕事は、サービスは、教育はどうなるのか? 経済産業省・産業構造審議会新産業構造部会の部会長を務める東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏が、同部会での議論をもとに最新の動向を語る。
時間:13:52
収録日:2016/02/09
追加日:2016/03/24
≪全文≫

●経産省・新産業構造部会の議論


 前にもご紹介したかもしれませんが、現在、経済産業省に、産業構造審議会新産業構造部会という部会が設置されています。ここで何を議論しているかというと、例えば、IoT(モノのインターネット)や、AI、人工知能ビッグデータの解析、クラウドコンピューティングなど、情報の分析ややり取りの世界で起こっている爆発的な革命が、結果的に日本や世界の産業をどう変えていくだろうかということを議論しています。大変面白い内容で、興味深い事例も多数紹介されています。ぜひ一度、この経産省の新産業構造部会のホームページを見ていただきたいと思います。

 結論からいうと、今、大変なことが起こっています。この「情報革命」の影響を受けない分野は、ほとんどないといえるでしょう。コマースの世界では、例えば、アマゾンが革新的な動きをして大きく変わっていることは、誰の目にも明らかですが、最近は、金融の世界でも、「フィンテック」という言葉で表現されるように、旧来の金融の世界のプレイヤーとはかなり違ったプレイヤーたちが、情報技術を駆使して、いろんなビジネスに参入しつつあります。

 また、医療の世界でも、ゲノム解析からビッグデータの利用までを含めて、ITによって医療は大きく変わりつつあります。日本の高齢化に伴って増加する医療費負担をできるだけ削減しながら医療の質を上げていく上で、実際にこれが非常に重要な役割をもたらすだろうといわれています。教育の世界も、ITを使ったいろんなラーニングシステムや遠隔教育という世界が見えてきています。ものづくりでいうと、工場の設備等がインターネットにつながることによって、ものづくりそのものが変わってくる。ドイツでは、「インダストリー4.0」という名前で、そういう動きを国全体で盛り上げようとしているわけで、日本もそういうものが必要かもしれません。


●情報革命で消える仕事と伸びる仕事


 こういうものに伴って、横串で見ると、労働や雇用など働き方もずいぶん変わってきていることが分かります。この新しい情報化の時代の働き方はどうなるのでしょうか。やはり特に気になるのは、ITやAIが進んできたときに、だんだんいらなくなる仕事が増えてきて、一方で、今後もさらにニーズが増える職種もある中で、全体の職種に対する需給がどのように変わっていくだろうかということです。こうしたことも、今の労働市場を考えると、非常に重要な意味を持ってきています。先ほどの経産省の研究会でも、そういう資料が出てきています。かなり細かく職種を分類し、それぞれがAIやIoTの進化によってどういう影響を受け得るのかについて、それなりの分析をしています。ぜひ一度、参考にしていただきたいと思います。

 AI、特に人工知能は非常に大きな動きだと思います。私は専門家ではありませんが、時々はっとさせられることがあります。ご存じのように、人工知能の発達はすさまじいものがあって、最近の話題でいうと、囲碁の世界でも、「コンピュータがプロの棋士に勝った」という報道がありました。われわれがこれまで、「将棋やチェスは比較的単純なゲームなので、コンピュータがプロを負かすことは想定しやすいが、囲碁は複雑だからそう簡単ではないだろう」という話を聞いていたのですが、その囲碁でも、ついにコンピュータがプロの棋士を負かしてしまったのです。要するに、人工知能などの技術が加速度的に向上してきているということでしょう。


●アナリストが真っ先にお払い箱に?!


 そうしたときに、今まで人間がやっていた機能の一部が機械に取られてしまうことは、当然あり得る話です。最近聞いた中で非常に印象的だったのは、ある国際的な金融機関で働いている人が行っていた、アナリストの仕事の話です。

 これまでは、例えば、日本銀行がこれからどういう政策を打ってくるだろうか、それによってマーケットはどう影響を受けるだろうか、ということを見るために、専門家が、日本銀行が発表するいろんなステートメントや、日銀総裁の記者会見・講演の中身をいろいろと分析していました。しかし、ひょっとしたら、そういう日本銀行から出てくるステートメントの解析などは、もう人工知能に任せた方が、実はレベルの高い結果が出てくるかもしれない、というのです。

 中央銀行が過去に発表した膨大な文書や記者会見の議事録があります。その過去の発表や会見が行われた前後に経済状況がどう変わってきたかというデータも大量にあります。これらを人工知能の中に取り込んでラーニングすることによって、これから出てくる日本銀行のさまざまな資料や総裁の記者会見の議事録を分析すれば、より踏み込んだ分析ができるのではないだろうか、と。

 それに加えて、例えば日銀総裁が口頭で記者会見を...
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