10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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イランの保守派・改革派の入れ替わりは激しい

イランのダブル選挙(3)管理された民主主義

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
明治大学特任教授であり中東情勢に詳しい山内昌之氏が、イランで行われた選挙の経過を分析し、イランの民主主義のあり方について考察する。今回、山内氏は独自の視点で、米大統領選とイラン選挙の意外な類似点を語ってくれた。(全4話中第3話)
時間:11:02
収録日:2016/03/02
追加日:2016/04/07
明治大学特任教授であり中東情勢に詳しい山内昌之氏が、イランで行われた選挙の経過を分析し、イランの民主主義のあり方について考察する。今回、山内氏は独自の視点で、米大統領選とイラン選挙の意外な類似点を語ってくれた。(全4話中第3話)
時間:11:02
収録日:2016/03/02
追加日:2016/04/07
≪全文≫

●選挙の裏にある「投票しない」という政治意思


 皆さん、こんにちは。引き続き、イランの現代政治と未来に大きな影響を与える今回の国会議員選挙と専門家会議の結果に対する、正確に申せば、途中経過に対する私の分析を続けてみたいと思います。

 投票率は、確かに60パーセントですが、これは裏を返して申しますと、30パーセントから40パーセントが選挙に参加しなかった、つまり、投票しなかったということを意味しています。すなわち、これは何を意味しているのかといいますと、一概に単一の原因ではないのですが、一つには、vote(選挙)をしないという行為そのものによって自らの政治意思を示すというやり方が、イランの場合にはあるということを証明しているのです。

 現在のハッサン・ローハニ大統領に近い存在として、元大統領ハーシェミー・ラフサンジャーニーがいると何度か触れました。このラフサンジャーニー元大統領は、あたかも改革穏健派のリーダーであるかのような印象を日本では持ちがちですが、この人物は、さまざまな形での利権や特権との関係で、その透明性に疑問を持たれており、イランの最高エリートたちがおおよそそうであるように、特権と非常に不可分に結びついている人物です。

 この人物について、アメリカのイラン系のイラン人の学者は、「狡猾なキツネ」と呼んだことがありますが、まことに当を得た言い方です。つまり、非常にクレバーな、そして、文明的な批判能力が高いイランの有権者たちの中には、あたかもこのラフサンジャーニーのごとき腐敗と汚職とが自由と民主主義の大義を振りかざす、そうしたその保守穏健派のリーダーであるというような状態に我慢がならないと思っている。そうした状況に対して、「自分たちは選挙をしない」という意思表示をしたという見方があります。すなわち、アリー・ハメネイ最高指導者以後の新しいトップリーダーを選ぶ国民が、そうした改革穏健派のステップにイエスと答えたという結果を見るのが嫌だ、という積極的な考えを消極的に意思表示する方法として選挙に参加しなかった、こういう見方もあるのです。


●保守派・改革派の入れ替わりはジェットコースター級


 イランにおいては、あたかもジェットコースターのように保守と改革が入れ替わります。1997年のモハンマド・ハータミー大統領の当選は、その後、文明の対話路線という形で知られ、そして、国際的に「文明間対話」という言葉が流行しました。私自身の書物の中にも、文明間対話、あるいは、文明の対話ということをかぶせた本があります(編集部注:『文明の衝突から対話へ』岩波現代文庫)。ハータミー大統領などによって提起された問題を、日本から受け止め、かつ日本政府の文化ミッションとして3回にわたって派出されたうち、2回はテヘランに私が団長として行きましたが、その時は、このハータミー大統領の時代でした。ところが、2005年に当選したアフムード・アフマディネジャド大統領の時代になりますと、完全にハータミー時代の国際的な対話路線に背を向けて、むしろ国際的な対決の時代に入りました。そして、アメリカとの交渉や接近を一切拒否するという形となり、この時期に、日本も、イランの市場や資源の開発からの一時的な撤退を余儀なくされたという経緯もありました。

 すなわち、イランの政治は大統領選挙に象徴されますように、前進と後退、前向きに進む、出るかと思ったら、後ろ向きに退いていくという、こういうドラマティックな変化がしばしば繰り広げられ、象徴的に...
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