●ブラジルレアルの力強い反発が起こっている
皆さん、こんにちは。シティグループ証券の高島です。為替市場では円高の進行に注目が集まっていますが、今日は、最近海外で話題になっているブラジルレアルの反発について、三つの観点からお話しします。一つ目は、ブラジルレアルの反発がどうして起こったのかを、ブラジル国内の要因からお話ししたいと思います。二つ目は、ブラジルの市場環境の変化をグローバルな市場環境からどのように見るべきかをお話しします。三つ目は、これらの観点と少し被るのですが、ブラジルを見る上ではメキシコとの対比が極めて重要だと考えており、メキシコをどう見るかを合わせてお話ししようと思います。
ブラジルレアルは、2011年から長期的に下落してきました。昨年(2015年)の9月には、1米ドル4レアルを超えて売られる動きが出ましたが、今までのところ、どうやらそれがレアルのセリングクライマックスで、その後は下げ渋りを半年間ほど続けていたのですが、本年3月に入って急速にブラジルレアルの力強い反発が起こっています。
●ルセフ大統領の辞任が反発の理由と言われている
この反発の理由として、市場では、ブラジルの政治環境が変わるからレアルや株価が上昇しているのだと言われています。実は今、ブラジルではジルマ・ルセフ大統領が辞任する観測が強まっています。ルセフ大統領に限ったことではないのですが、過去1年少しの間に、さまざまな汚職問題、あるいは国営石油会社ペトロブラスの不正会計問題の摘発、検察当局の調査が進んでおり、その線上にルセフ大統領が浮かび上がってきたのです。ブラジルは今、ルセフ大統領の弾劾手続きをしようとしており、成立すれば、ルセフ大統領が辞任することになるでしょう。正確に言えば、ルセフ大統領の大統領権限を一時停止した後に辞任と考えられています。
通常であれば、こうした政権の求心力の低下は、その国の通貨が売られる要因になりやすいのですが、ブラジルに関して言えば、ルセフ大統領の社会主義的な政策に対して、市場はこれまで非常に厳しい見方をしていましたから、ルセフ大統領よりも市場に優しい人が大統領になってくれたら、ブラジル経済にとってポジティブだという見方が出てきているのです。
この弾劾がどのような理由で成立するかによって、誰がルセフ大統領の後任になり得るかが違ってくると言われていますが、今のところ有力視されているのは、ミシェル・テメル副大統領です。テメル副大統領は比較的手堅い実務家だと見られており、大統領に昇格すれば、市場にとってプラスと考えられています。
こうした動向の中、ブラジルの足元の政治環境は二転三転しています。ルセフ政権与党は、ルセフ大統領の出身母体・労働党と、テメル副大統領の出身母体である民主運動党(PMDB)を中心とした連立与党でしたが、ごく最近、民主運動党が連立政権から離脱すると決め、閣僚が何人か辞任しています。ただし、テメル副大統領は大統領選挙で指名されていますから、民主運動党が連立政権から離脱しても副大統領の職に残ります。そして、ルセフ大統領が辞めたときには、大統領に昇格すると見られています。これが、ブラジルレアルが反発している理由として市場で言われていることです。
●単なる通貨安政策に踏み込んでから、レアルは下がった
いま長々とお話ししてきましたが、こうした見方に対して、私はどちらかといえば否定的です。この先どうなるのか分からない政治環境の変化を、通貨が上昇している理由として後づけ講釈で挙げるのは、極めてレベルが低いと思っています。
私自身は、ブラジルレアルを、2011年、ブラジルレアルが下落を始める前からずっと弱気に見てきました。しかし、昨年9月、1米ドル4レアルを超えて売られた辺りから、レアル弱気の見方を修正しています。
どうしてそのような判断をしたかをこれからお話しします。いま見ていただいているグラフは、2011年のブラジルの政策転換の重要性を示しています。当時、ルセフ大統領の前のルーラ(ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ)大統領の下で、ブラジル中央銀行は利上げをしていました。利上げすることで、消費や投資を抑制して、内需を押さえ、経常赤字を減らす政策を取っていたのです。ところが、ルセフ大統領に替わったとたんに、中央銀行が利上げから利下げに転換しました。私はこの段階で、ブラジルが明らかに内需抑制策を途中で放棄して、単なる通貨安政策に踏み込んだという見方をしました。その時はまだレアルが上がっていて、為替市場ではレアル高にフォーカスが当たっていたのですが、私はその時点で、「もうブラジルレアルは下がる」という見方をしたのです。その後4年間、私はブラジルレアルに関しては、一度も強気の...