●実体なき象徴国家、IS
今、テロがすごく多いですね。昨年(2015年)の春に、フランスで新聞社が襲撃されて12人が殺され、11月にはパリで130人殺され、さらにアメリカでは福祉施設が襲撃されて14人が殺されています。今年の始めには、トルコのアンカラとインドネシアで自爆テロが起こりました。もう大変です。毎日のようにテロが起こっています。
これはどういうことか。インドネシアの場合にはISから若干の人が行ったと言われていますが、ほとんどの国はそうではありません。パリの時も同じです。ベルギーで感化されたり訓練されたりした人が、フランスへ来てやっているということで、ベルギー人、フランス人、アラブ人の混合です。
この前(2014年)、北海道大学の学生が「ISに行きたい」と言って騒動になったことがありましたが、どういうことかというと、ISは組織なき国家、象徴国家なのです。ISは今、全世界にICTを使って大変なアピールをしています。あれを見ると、すごくよくできているのだそうです。
●発端は9・11とアフガン侵攻
いったいISとは何なのでしょう。ということで、事の起こりを少しご説明したいと思います。
事の起こりは、2001年の9月11日に戻ります。あのニューヨークのワールド・トレード・センター崩壊です。あれをやったのは、アル・カイーダです。ビン・ラディンもその一味。ビン・ラディンはサウジアラビア出身と言われています。これをやっつけなければいけないということで、ジョージ・W・ブッシュ大統領は直ちに特殊部隊を派遣することにしました。驚いたのは、派遣したのが10月7日だということです。9月11日から1カ月以内に特殊部隊が攻撃を開始していたのです。
実は、私自身が妙な経験をしています。2001年12月23日の午後、私は横須賀軍港のふ頭にいました。なぜかというと、旗艦ではなく原子力空母になる直前の最後の普通空母で、6000人が乗って相模灘を北上してくるアメリカ第7艦隊の9万トンの大きな船に、私は米海軍の横須賀基地から大型ヘリで乗艦するからです。甲板に着いたら、隊員たちが並んでいて、敬礼されたのですが、皆かっこよかったのです。
クリスマスの直前でしたから、艦内は華やかでした。若い女性の士官は皆、ミニスカートのサンタクロースで、本当にかわいいのです。掃除のおばさんもたくさん乗っていました。戦闘爆撃機は全て飛び立った後でした。だんだん横須賀ふ頭に近づいてきたのですね。そうしたら、アメリカ国歌が放送されて、その後はほとんどマライア・キャリーです。副艦長が「選曲いいだろう。俺がやったんだ」などと言っていました。
アフガンの沖にいた時に、「12月23日には帰る」と約束しているのですね。なぜかというと、アメリカの男はクリスマス・イブに夫がターキーを焼いて出さなければ、夫失格だからです。23日に夫が帰ってこなかったら、アメリカ海軍全体がアウトになってしまう。途中、嵐が二度あったそうですが、なんとかたどり着いて、午後1時にちゃんと着岸してきました。その時にさすがと思ったのは、ほとんど動いていないように感じたからです。私は艦橋で艦長の近くにいました。そこで水面を見ると、大きな棒が相当なスピードでばーっと動いていくのですよ。さらに巡洋艦が2隻、両方に付きます。なぜかというと、空母は長さ250メートル、高さは30メートルに及ぶ物体ですから、風が吹いてくるとすごい推力になってしまうのです。少しでも計算を間違えると、ふ頭を崩してしまうので、それを防ぐためです。
とにかくふ頭に着きました。そうしたら、お父さんが帰ってきたということで、お母さんたちが、風船を上げたり花火を上げたりして大喜びし、キスし合っているのですね。ちょうどこの同じ時刻に、鹿児島の沖で北朝鮮の不審船が自爆しています。悲しいかな、国力の違いですね。だから、アメリカと戦争した日本は、気が狂っていたと思いました。
なぜこの話をしたか。船に乗っている時、艦長にこのミッションは何だと聞いたら、特殊部隊をアフガニスタンに運んでいると言うのです。人数は800人です。どこから乗ってくるのかというと、フィリピンなど、いろいろなところから乗ってくるのです。艦長でも、名前はおろか正確な人数も、全て分からないそうです。アフガニスタンの沖で大型ヘリを使い、部隊を砂漠へ運ぶわけです。それで任務完了となり、帰ってきました。だから、10月に始動したのが第一陣で、12月23日に横須賀港にたどり着いたのです。
●テロとの非対称戦争が、かえって組織を拡散させた
大事なのはここです。この時アメリカが何をやったのか。特殊部隊はアル・カイーダをやっつけなければいけないのですが、それを支えていたのはタリバ...