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深海で働く海中ロボット、生みの親が全てを語る

自律型海中ロボット~深海に切り込む(1)海を語ることは愚かである

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
r2D4
人間が立ち入ることのできない極限環境で活躍する自律型海中ロボット。その精度と性能がいま、注目を集めている。10MTVでは、九州工業大学社会ロボット具現化センター長・浦環氏に「深海に切り込む自律型海中ロボット」のお話を伺う機会を得た。「海は語らない、海中ロボットを語る」という浦氏の話に耳を傾けよう。(全5話中第1話)
時間:11:29
収録日:2016/01/12
追加日:2016/05/23
≪全文≫

●海は語らない、海中ロボットを語る


 九州工業大学の浦です。私は、今日から「深海に切りこむ自律型海中ロボット」という題でお話をしたいと思います。

 今日はその第1回で、「海を語ることは愚かである」というテーマでお話をします。

 「海を知る者は賢い。しかし、海を語ることは愚かである」

 海は自然そのものですから、いろいろなことがある。それを知るのはとても大切なことですよ、というのが前半です。後半はどんな意味なのかというと、未知である海には、知らないことが山のようにあり、訪れるたびに、驚きや喜びがある。自分が知っているだけのことで、偉そうに海を語るのは、ちょっと違うのではなかろうか。海というのは、そう簡単にあなたが知り得るようなものではない。

 私は、この言葉がとても好きです。なぜならば、自分が海に行くときにも、いつも知らないことが起こり、新しい発見、新しい喜びや驚きがあります。ですから、「海は語らない」ということにしたい。それから、私が海を知ろうとする努力は、賢い人間になるための道ではないかと思うのです。

 今回の講義では、私は海は語らないのですが、海中ロボットを語ります。これが非常に重要なポイントです。


●これまでの活動や所属について


 次に、私は何をしているかをお話しします。

 私の専門領域は、数年前まで「海中ロボット学」に特化していましたが、現在は「フィールドロボティクス」であると標榜しています。海から陸、空、山、農地などで働くロボットをつくっていきたいと考えています。それが研究の専門です。

 3年前に東大を辞め、北九州にある九州工業大学の「社会ロボット具現化センター」でセンター長を務めています。また、海上技術安全研究所(旧・船舶技術研究所)は海に関係しているために昔から付き合いがあり、現在もフェローをして、東京の拠点にしています。横浜国立大学の客員教授もしています。横浜市や神奈川県、横浜国大のために知恵を出していく立場です。

 また、重要な仕事として、内閣の「総合海洋政策本部」があります。本部長は内閣総理大臣で、参与会議を招集して、いろいろ意見を聞くことになっています。その参与を務めています。これは2007年に制定された「海洋基本法」に基づく役職で、すでに3回にわたってメンバー交替をしています。私は第1期から第3期まで連続で参与を務めています。海洋基本法の下に、2008年に海洋基本計画ができ、2013年には第2次計画が作られました。それらにもタッチしています。

 それから、総合科学技術会議が創設した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の中に、10個の大きなテーマが挙がっています。その中の一つに「海のジパング計画」があり、サブプログラムディレクターを務めています。こちらは第3回でお話をしようと思っています。

 その他、IEEEのフェローになっており、日本船舶海洋工学会の名誉会員でもあります。学会活動はそういうところです。

 出身は灘中学・灘高校です。そこから東大に入り、船舶工学科を卒業した後は大学院に進み、それから東京大学の生産技術研究所で30年以上勤めていました。そこで海中ロボットをやってきたというわけです。


●海中ロボットとは何か。25年間の変遷を見る


 この後はずっと「海中ロボット」を中心に語り続けるわけですので、最初に海中ロボットとは何かを示したいと思います。

 2枚の写真が並んでいますが、左側はカメの泳いでいるところで、25年前に私がカウアイ島で潜った時に撮ったウミガメの写真です。右側は、同じく25年前につくった「PTEROA(プテロア)150」という私にとっては最初の本格的な「自律型海中ロボット」です。

 これらは同じ頃に撮影したビデオですが、左側のカメは知恵があり、一人で生活しています。右側のロボットは、電池で動いています。全自動で動いてはいるのですが、なかなかカメには至りません。当時のわれわれは、カメには悪いのですが「数十年もしたら、カメぐらいの自律型海中ロボットをつくりたい」と思っていました。

 自律型海中ロボットというのは、鉄腕アトムのようなものです。要するにカメと同じで、自分で考え、自分で行動し、それからエネルギーも自分で持っているというものです。

 最初の画像から10数年後には「r2D4」というロボットをつくり、インド洋も含めた世界中の海を潜らせました。さらに「TunaーSand(ツナサンド)」というロボットもつくり、今も現役で、いろいろ活躍しています。

 今までに約30年ほどこの研究をしてきた仲で、20機ぐらいの自律型ロボットをつくっています。次の写真はそのラインナップです。

 随分いろいろな形をしたロボットだと思われるかもしれま...
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