●海は語らない、海中ロボットを語る
九州工業大学の浦です。私は、今日から「深海に切りこむ自律型海中ロボット」という題でお話をしたいと思います。
今日はその第1回で、「海を語ることは愚かである」というテーマでお話をします。
「海を知る者は賢い。しかし、海を語ることは愚かである」
海は自然そのものですから、いろいろなことがある。それを知るのはとても大切なことですよ、というのが前半です。後半はどんな意味なのかというと、未知である海には、知らないことが山のようにあり、訪れるたびに、驚きや喜びがある。自分が知っているだけのことで、偉そうに海を語るのは、ちょっと違うのではなかろうか。海というのは、そう簡単にあなたが知り得るようなものではない。
私は、この言葉がとても好きです。なぜならば、自分が海に行くときにも、いつも知らないことが起こり、新しい発見、新しい喜びや驚きがあります。ですから、「海は語らない」ということにしたい。それから、私が海を知ろうとする努力は、賢い人間になるための道ではないかと思うのです。
今回の講義では、私は海は語らないのですが、海中ロボットを語ります。これが非常に重要なポイントです。
●これまでの活動や所属について
次に、私は何をしているかをお話しします。
私の専門領域は、数年前まで「海中ロボット学」に特化していましたが、現在は「フィールドロボティクス」であると標榜しています。海から陸、空、山、農地などで働くロボットをつくっていきたいと考えています。それが研究の専門です。
3年前に東大を辞め、北九州にある九州工業大学の「社会ロボット具現化センター」でセンター長を務めています。また、海上技術安全研究所(旧・船舶技術研究所)は海に関係しているために昔から付き合いがあり、現在もフェローをして、東京の拠点にしています。横浜国立大学の客員教授もしています。横浜市や神奈川県、横浜国大のために知恵を出していく立場です。
また、重要な仕事として、内閣の「総合海洋政策本部」があります。本部長は内閣総理大臣で、参与会議を招集して、いろいろ意見を聞くことになっています。その参与を務めています。これは2007年に制定された「海洋基本法」に基づく役職で、すでに3回にわたってメンバー交替をしています。私は第1期から第3期まで連続で参与を務めています。海洋基本法の下に、2008年に海洋基本計画ができ、2013年には第2次計画が作られました。それらにもタッチしています。
それから、総合科学技術会議が創設した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の中に、10個の大きなテーマが挙がっています。その中の一つに「海のジパング計画」があり、サブプログラムディレクターを務めています。こちらは第3回でお話をしようと思っています。
その他、IEEEのフェローになっており、日本船舶海洋工学会の名誉会員でもあります。学会活動はそういうところです。
出身は灘中学・灘高校です。そこから東大に入り、船舶工学科を卒業した後は大学院に進み、それから東京大学の生産技術研究所で30年以上勤めていました。そこで海中ロボットをやってきたというわけです。
●海中ロボットとは何か。25年間の変遷を見る
この後はずっと「海中ロボット」を中心に語り続けるわけですので、最初に海中ロボットとは何かを示したいと思います。
2枚の写真が並んでいますが、左側はカメの泳いでいるところで、25年前に私がカウアイ島で潜った時に撮ったウミガメの写真です。右側は、同じく25年前につくった「PTEROA(プテロア)150」という私にとっては最初の本格的な「自律型海中ロボット」です。
これらは同じ頃に撮影したビデオですが、左側のカメは知恵があり、一人で生活しています。右側のロボットは、電池で動いています。全自動で動いてはいるのですが、なかなかカメには至りません。当時のわれわれは、カメには悪いのですが「数十年もしたら、カメぐらいの自律型海中ロボットをつくりたい」と思っていました。
自律型海中ロボットというのは、鉄腕アトムのようなものです。要するにカメと同じで、自分で考え、自分で行動し、それからエネルギーも自分で持っているというものです。
最初の画像から10数年後には「r2D4」というロボットをつくり、インド洋も含めた世界中の海を潜らせました。さらに「TunaーSand(ツナサンド)」というロボットもつくり、今も現役で、いろいろ活躍しています。
今までに約30年ほどこの研究をしてきた仲で、20機ぐらいの自律型ロボットをつくっています。次の写真はそのラインナップです。
随分いろいろな形をしたロボットだと思われるかもしれま...