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課題は、高齢化しているタイの政治的エリート層の世代交代

「TPP」か「一帯一路」か(5)タイと台湾の情勢

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 第3代理事長/国際政治学者
概要・テキスト
安倍総理と握手するプラユット首相(平成27年2月9日)
軍事クーデターが続くタイと、2016年に政権交代を実現した台湾の情勢について、政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏が分析する。タイは、高齢化した指導者層の世代交代が望まれるが、そこでは王位継承の動向が鍵となるだろう。台湾は、進み過ぎた中台関係を引き戻した点では政治的に評価できるが、経済的には人材流出という問題を抱えている。(全5話中最終話)
時間:11:57
収録日:2016/03/09
追加日:2016/05/30
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≪全文≫

●タイが抱える政治的問題


 タイに関しては、私は辛抱するしかないと思います。「辛抱する」というのは、タイの人たちではなく、われわれです。われわれが温かく見守るしかないのではないかと私は思っています。

 基本的な問題は、1人当たりの国民所得で見ると、バンコクとその周辺の東北の地方では、1対8ないし1対9ぐらいの差があるはずです。これがほとんど良くなっていません。

 ところが、予算を見ると、バンコクの方に7割以上を使っています。日本の政治と比較して考えると、想像を絶するようなバンコク偏重です。「これで同じ国民なのか」という感じがします。

 これはタクシン・チナワット首相の在任時、つまり13~4年ほど前から分かっていたことです。それがずっと続いているのです。おそらく国際環境が非常に不利な国であれば、これほど悠長に内輪もめなどできなかったと思います。ひょっとしたら、本当に国が滅びるかもしれない事態なのですから。

 ところが、タイの国際環境はものすごく良いのです。中国との紛争はありませんし、アメリカの同盟国です。日本にとっては、なんといってもあの国の産業集積は重要だし、皇室と王室の関係もあります。ということで、大変有利な国際戦略環境の中で、安心して内輪もめできるというのが、タイを取り巻く条件だと私は思います。


●相当に高齢化しているタイの政治的エリート層


 ただ、タイの政治エリートの年齢や世代から見ると、正直言って、10年前に世代交代があってしかるべきところです。

 ところが、プラユット・ジャンオーチャー現首相も今は60代ですし、皆さん大体私と同じ世代です。タイの基準からいうと、確実に歳を取っているのです。私がなんとなく日本の感覚で、まだ10年ぐらいあるというような話をすると、「とんでもない」と言われます。「うちの平均寿命はまだ70歳そこそこだ」という話なのです。

 ですから、その意味でいうと、タイの支配エリート、政治エリートの人たちは、かなり歳を取っているということです。日本の感覚でいえば、おそらく70代の後半から80代の人が首相や大臣をやっているということだろうと思います。

 ということは逆にいうと、それほど遠くない将来に、指導者の交代をやらざるを得ないということなのです。ところが今、なぜそういったことができないかというと、その条件は二つあ...
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