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自律から成長へ、ロボット開発の課題

自律型海中ロボット~深海に切り込む(2)自分で行動を決め、価値を生む

浦環
東京大学名誉教授
情報・テキスト
海中ロボットを語るときのキーワードは「自律」である。これは、「自立」や「自動」とはどう違うのだろうか。また「知的(インテリジェント)」なロボットとは、何ができることを指すのだろうか。自律型海中ロボットの権威である九州工業大学ロボット具現化センター長・浦環氏にお話を伺っていく。(全5話中第2話)。
時間:11:20
収録日:2016/01/12
追加日:2016/05/30
≪全文≫

●ロボット自身が行動を決める「自律型ロボット」


 自律型海中ロボットのパフォーマンスの一つをビデオでお示ししたところで、自律型海中ロボットは一体何かということを、もう少し詳しく説明したいと思います。

 自律型ロボットの定義は、周囲の状況と自分自身の状態に応じて行動を変えていくことです。ロボット自身が、センサからのデータに基づいて決めていく。これが「自律型」の定義です。ここで重要なのは、誰かに「こうしろ」と言われるのではなく、自分の持っているセンサによるデータから判断すること。それが自律型ロボットの基本であり、海の中で動くということです。

 重要なのは、センサがあって、ロボットがあって、コンピュータがあって行動を起こす。そのセンサ・データの内容によって行動を変えていくことです。構成としては、五感、頭脳、運動器官が構成要素です。このすべてをトータルとして、ロボットは動きます。

 ですから、頭脳だけを研究してもロボットはできません。いいセンサがなければ駄目です。いいセンサがあっても、頭が悪ければ駄目。頭がよくても、動かすところの手足がきちんとしなければ駄目。と、こういうことになります。

 私が言っている「ロボット学」とは何かというと、「トータルでものを考えないといけない」ということであり、ロボットの制御工学ではないということです。


●炊飯器や洗濯機の働きは「自動」か「自律」か?


 そこで、「自律:オートノマス」というものを考えてみましょう。似たような言葉ですが、「自動:オートマティック」、「自律:オートノマス」、「自立:インディペンデント」、「知的:インテリジェンス」という四つの言葉が、ロボットにはよく使われます。この四つをきちんと区別する必要があると思います。

 一番目のオートマティック。これは割とどこでも出てくるのですが、あらかじめ用意された作業手順に従って、ボタンやスイッチで動作をするということです。スイッチを押せば、自動的に動き出しますという感じです。

 自律は、先ほど自律型をセンサ・データで説明しましたが、外部からのコントロール(制御)から脱して、自分自身の立てた規範に従って行動することです。ですから、もちろんスイッチは誰かが入れるわけですが、その後の「どうしろ、こうしろ」は必要なく、全部終わりまでやってくれる。

 いい例は、自動炊飯器です。自動炊飯器は、ボタンを押すと最後までやって、ちゃんとご飯ができてくれるという、非常に自律的なものになっているわけです。さらに自律性が高まれば、入れたお米が新米か古米かを区別して、温度を調節してくれる。そういうことができてくれば、より自律性が高まるわけです。

 洗濯機も、最近は非常に自律性の高いものが出てきています。入れた服の量によって水の量を調整してくれたり、洗う回数を変えてくれたりするようになったのが、自律性の高さです。ただし、この場合は、自動的な動きの中に、ある程度の自律性があると言った方がいいかと思います。なぜかというと、電気洗濯機はセンサ・データに基づいて行動を決めているからです。


●「自立」と「知的」のロボット工学的な意味合い


 次に、自立:インディペンデントです。自律と自立では響きは同じですが、意味が違います。

 インディペンデントは、他の援助や支配を受けずに、自分の力で身を立てること。つまり、お父さんや母さんからお小遣いをもらって生活はしない。それから、お父さんやお母さんの言うことを聞くのではない。先日成人式がありましたが、「あなたは自立した大人になりました」と言われるのは、そういうことです。

 しかし、自立した人がオートノマスかどうかは別です。つまり、社長に言われる通りのことをやっていれば、生活は自立しているけれども、行動はオートノマスではない。こういうふうになるわけです。

 次に、インテリジェンス。「知的ロボット」というのは非常に重要な概念で、われわれが大学で研究しているのも知的ロボットです。インテリジェンスを研究するのはとても楽しいことだし、大学にとっても重要です。さて、この意味は前の三つとは違い、物事の理屈がすぐに理解できる能力があるということです。

 つまり、ある事象が起こって、次に何か別の事象が起こったとする。その時に、前後関係を類推して「ひょっとして、これはこういうことだったのか」と理解することができるのを、「知的」というわけです。

 例えば海に潜るとき、何度やってもうまくいかなかったとします。ところが息を吹きながら潜ろうとすると、自然に浮力が減って、うまくいく。そのことは誰に教えられなくても、潜りを自分で練習しているうちにできたりします。それができれば、その人は知的な人だ、と言われるわけです。


●四つの要...

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