●海の中でロボットを待ち受ける数々の困難
海の中でロボットを動かすときに、何を考えなくてはいけないかというと、われわれは海の中のことをあまりよく知らず、そこには危険が待ち構えているということです。
前回挙げた例で言えば、子どもを新宿にやるときに、新宿がどうなっているかよく分からない状況です。5歳の子どもを歌舞伎町に連れて行くのに、急に「一人で行け」というわけにはいきません。歌舞伎町のことをよく知らなければ、歌舞伎町にはやれない。ここが重要です。
われわれが海のことをよく知り、ロボットが遭いそうな危険を回避するようにしないと、ロボットが必ず帰ってくるという保証はできません。
ロボットが船の上から吊り下ろされ、海の中で活動を展開していって、帰ってくるまでの間でどういうことが大変なのかを、最初に申し上げておきたいと思います。
まず、船は波で揺れます。吊り下ろすときにブランブラン揺れると、どこかにボーンとぶつかって壊れる可能性があります。
海の中に潜っていくロボットには水圧がかかり、さらに「電触」にあいます。電触というのは、水の中で2種類の金属がくっついていたときに、片方が溶けてしまい、さびを出す現象です。アルミが鉄とくっついていたりすると、すぐ溶けてしまう。そのようなことが起こります。
それから、海の中にも流れがあるので、どんどん押し流されてしまうこともあります。
また、漁網がある。実際に、うちのロボットは、オホーツク海で一度刺し網に引っかかり、網ごと引き揚げてもらいました。琵琶湖でもやはり刺し網に引っかかって、網ごと揚げました。そういうことがあるので、網を見つけてよけなければいけないです。
さらに、海底には岩や何かが出ていて、障害物になることもあります。
●位置確認のために付けるロボットの諸装備
こういった事態に遭遇したときに、ロボットがどこにいるかを知らないと、上にいる人は不安になる。これは当然のことですね。そのためには、音響の測量装置があります。図中に書いてある「SSBL親機」とトランスポンダが通信のようなことをしていて、船上からロボットがどこにいるかを見ているわけです。
それはなぜかというと、心配だからです。先ほど申しましたように、「ロボットは一人でやっているから、親は心配しなくていい」というのがわれわれの大目標ではありますが、やはり最初は心配だから、歌舞伎町に行く子どもに携帯電話を持たせるように、トランスポンダを搭載しておきます。
それから、音響通信もできなくはありません。ただ、これは陸上のように年中できるわけではなく、データの伝送速度も遅いし、ほとんど通信できない事態もよくあります。
帰ってくるときにも困難は伴います。まず、せっかく帰ってきても、広い海の上のどこにいるかが分からないと探せません。探せないと、拾い上げることはできない。そのために、どうするかというと、「フラッシャー」のような光の点滅する装置や「ラジオビーコン」のように電波を出して位置を確認するものが搭載されています。それから、衛星通信装置。これは、衛星通信を通じて、現在位置をオペレータに伝えてくれます。ベースになるのはGPSの受信機ですが、GPSは海中にいるときには全然使えません。しかし、浮上してくると、GPSのデータが衛星を経由して、自分の位置を教えてくれます。
こういったもろもろのものを付けないと、ロボットを海の中へ潜らせることはできません。
●ロボットの行動計画には万全の準備と想像力が物を言う
さらに心配なのは、なんらかの障害にぶつかったとき、救難用の遠隔操縦機(ROV)を出して拾いに行かなくてはならないことが起こったときです。
われわれのロボットはJAMSTEC(海洋研究開発機構)の船から発着することが多いのですが、通常は救難用の遠隔操縦機までは持っていきません。ですから、「もしも網に引っかかったら、どうしようか」と、かなりハラハラするわけです。
ですから、十分な安全対策を取らなくてはなりません。海の中のいろいろな困難を想像し、ロボットはこんなふうに泳いでいるのだろうなと考えて、ロボットの行動計画を立てることです。行動計画を立てる際に最も重要なのは、海中でのロボットの活動や動線をよく想像することです。
想像することは、深い海のことをよく知ることでもあり、かつ全体的な状況、船のオペレーションの具合から、波はどうなっているのか、天気はどうかなどに思いを巡らすことでもあります。
●人類の三つのフロンティアに到達した人数は?
これらは、言うのは易しいことですが、われわれは一体海のことをどのぐらい知っているのでしょうか。「海を私は語らない」のではありますが、海に関す...