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エベレスト、マリアナ海溝、月――到達した人類は何人?

自律型海中ロボット~深海に切り込む(3)海中はなぜ危険なのか

浦環
東京大学名誉教授
情報・テキスト
海中でロボットを動かすときに必要なのは、待ち受ける困難を予想する力である。しかし、人類はあまりにも海中の状況に不案内だ。試みに「エベレスト、マリアナ海溝、月」という三つのフロンティアに到達した人類の人数を確かめてみよう。自律型海中ロボットの権威である九州工業大学社会ロボット具現化センター長・浦環氏が案内してくれる。(全5話中3話)
時間:12:26
収録日:2016/01/12
追加日:2016/06/06
≪全文≫

●海の中でロボットを待ち受ける数々の困難


 海の中でロボットを動かすときに、何を考えなくてはいけないかというと、われわれは海の中のことをあまりよく知らず、そこには危険が待ち構えているということです。

 前回挙げた例で言えば、子どもを新宿にやるときに、新宿がどうなっているかよく分からない状況です。5歳の子どもを歌舞伎町に連れて行くのに、急に「一人で行け」というわけにはいきません。歌舞伎町のことをよく知らなければ、歌舞伎町にはやれない。ここが重要です。

 われわれが海のことをよく知り、ロボットが遭いそうな危険を回避するようにしないと、ロボットが必ず帰ってくるという保証はできません。

 ロボットが船の上から吊り下ろされ、海の中で活動を展開していって、帰ってくるまでの間でどういうことが大変なのかを、最初に申し上げておきたいと思います。

 まず、船は波で揺れます。吊り下ろすときにブランブラン揺れると、どこかにボーンとぶつかって壊れる可能性があります。

 海の中に潜っていくロボットには水圧がかかり、さらに「電触」にあいます。電触というのは、水の中で2種類の金属がくっついていたときに、片方が溶けてしまい、さびを出す現象です。アルミが鉄とくっついていたりすると、すぐ溶けてしまう。そのようなことが起こります。

 それから、海の中にも流れがあるので、どんどん押し流されてしまうこともあります。

 また、漁網がある。実際に、うちのロボットは、オホーツク海で一度刺し網に引っかかり、網ごと引き揚げてもらいました。琵琶湖でもやはり刺し網に引っかかって、網ごと揚げました。そういうことがあるので、網を見つけてよけなければいけないです。

 さらに、海底には岩や何かが出ていて、障害物になることもあります。


●位置確認のために付けるロボットの諸装備


 こういった事態に遭遇したときに、ロボットがどこにいるかを知らないと、上にいる人は不安になる。これは当然のことですね。そのためには、音響の測量装置があります。図中に書いてある「SSBL親機」とトランスポンダが通信のようなことをしていて、船上からロボットがどこにいるかを見ているわけです。

 それはなぜかというと、心配だからです。先ほど申しましたように、「ロボットは一人でやっているから、親は心配しなくていい」というのがわれわれの大目標ではありますが、やはり最初は心配だから、歌舞伎町に行く子どもに携帯電話を持たせるように、トランスポンダを搭載しておきます。

 それから、音響通信もできなくはありません。ただ、これは陸上のように年中できるわけではなく、データの伝送速度も遅いし、ほとんど通信できない事態もよくあります。

 帰ってくるときにも困難は伴います。まず、せっかく帰ってきても、広い海の上のどこにいるかが分からないと探せません。探せないと、拾い上げることはできない。そのために、どうするかというと、「フラッシャー」のような光の点滅する装置や「ラジオビーコン」のように電波を出して位置を確認するものが搭載されています。それから、衛星通信装置。これは、衛星通信を通じて、現在位置をオペレータに伝えてくれます。ベースになるのはGPSの受信機ですが、GPSは海中にいるときには全然使えません。しかし、浮上してくると、GPSのデータが衛星を経由して、自分の位置を教えてくれます。

 こういったもろもろのものを付けないと、ロボットを海の中へ潜らせることはできません。


●ロボットの行動計画には万全の準備と想像力が物を言う


 さらに心配なのは、なんらかの障害にぶつかったとき、救難用の遠隔操縦機(ROV)を出して拾いに行かなくてはならないことが起こったときです。

 われわれのロボットはJAMSTEC(海洋研究開発機構)の船から発着することが多いのですが、通常は救難用の遠隔操縦機までは持っていきません。ですから、「もしも網に引っかかったら、どうしようか」と、かなりハラハラするわけです。

 ですから、十分な安全対策を取らなくてはなりません。海の中のいろいろな困難を想像し、ロボットはこんなふうに泳いでいるのだろうなと考えて、ロボットの行動計画を立てることです。行動計画を立てる際に最も重要なのは、海中でのロボットの活動や動線をよく想像することです。

 想像することは、深い海のことをよく知ることでもあり、かつ全体的な状況、船のオペレーションの具合から、波はどうなっているのか、天気はどうかなどに思いを巡らすことでもあります。


●人類の三つのフロンティアに到達した人数は?


 これらは、言うのは易しいことですが、われわれは一体海のことをどのぐらい知っているのでしょうか。「海を私は語らない」のではありますが、海に関す...
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