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ゲットー英雄記念碑の前で跪き、黙祷を捧げたブラント

なぜ「ドイツの謝罪」のようにいかなかったのか(1)世界に印象づけられたドイツの二つの謝罪

若宮啓文
元朝日新聞主筆
情報・テキスト
ヴィリー・ブラント広場にあるレリーフ
日本はなぜドイツのように戦争責任を明確にできなかったのか。世界に印象づけられたドイツの二つの謝罪 “ブラントの祈り”と“ヴァイツゼッカーの演説”を取り上げながら、日本の村山談話との違いを解説していく。(前編)
時間:06:11
収録日:2013/10/31
追加日:2014/04/17
カテゴリー:
≪全文≫

●日本はなぜドイツのように戦争責任を明確にしなかったのか


日本の歴史認識を問うときに、よく中国や韓国の人たちは、「日本はなぜドイツのようにすっきりと過去を否定し、過去の責任を明確にしなかったのか」「今からでも遅くないから、ドイツのようにしろ」というようなことを言われます。日本の中にもそういう意見の人がいます。
これはどういうことかと言うと、一つは、東京裁判のように、ドイツでは戦争が終わったあとでニュルンベルク裁判が行われました。そのときは、ヒットラーは自殺していましたし、最高幹部数人はいなかったのですが、残るナチスドイツの責任者たちを中心に多くの人が裁かれました。死刑になったのは12人だったと思います。
それから、ドイツの国内でも、ナチスを裁くような裁判が行われたということがあります。

●ドイツの二つの謝罪:“ブラントの祈り”と“ヴァイツゼッカーの演説”


しかし、そのようなことよりも、韓国や中国の人がよく口にし、頭に思い浮かべることが二つあります。
一つは、1970年、当時の西ドイツの首相でヴィリー・ブラントという人がいたのですが、昔ゲットーと呼ばれたポーランドのユダヤ人が住んでいた地区の跡地にホロコーストで亡くなった大勢の人々の慰霊碑がありまして、ポーランドの人たちが非常に多かったものですから、ブラント首相はそこに行って、ひざまずき花束を捧げ、祈りを捧げたのです。その映像が世界中に流れ、それが「ドイツの謝罪」ということで有名になりました。この映像はいまだによく使われています。
それからもう一つは、1985年。この年は戦後40年にあたり、ドイツでは5月が終戦の月でしたので、5月8日に当時のドイツのヴァイツゼッカーという大統領が議会で、過去に対する反省と、「われわれはそのことを忘れてはならない」という有名な演説をしました。その一説を少し読み上げてみます。

「われわれは戦いと暴力支配のなかで斃(たお)れた人々を哀しみのうちに思い浮かべます。ことに強制収容所で命を奪われた600万のユダヤ人たち。あるいは、ソ連、ポーランドの無数の死者たち・・・」

このように例を挙げていき、「われわれもそういう過去を忘れてはいけないのだ」と述べています。
そして、このような有名なフレーズがあります。

「過去に目を閉ざす者は、結局のところ現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険にも陥りやすいのだ」

非常に文学的な内容です。

●ドイツの謝罪と村山談話の違い


さて、それに比べて「日本は何もなかったのか」と言われると、実は大変心外でありまして、前回までにお話した「村山談話」に代表される謝罪の談話があります。これは内容的には、さほど文学的ではありませんけれども、明確に植民地支配と侵略を謝罪したという意味では、決して引けを取るものではないのです。
ただ、一つは、“ブラントの祈り”が映像として今日まで伝わっていて、このビジュアルの印象があります。それから、ヴァイツゼッカーの演説の非常に文学的な表現です。そして、何よりも、これらに対してドイツの中から、あまり文句を言える人が出てこないのです。不規則発言が出てこない。特にナチスドイツを賞賛するような言動をすると、これが犯罪に問われるというようなところまで徹底しているのです。
それに比べると、日本の場合、村山さんの談話は、こうして机の上で読み上げただけのものですから、あまりビジュアルに伝わっていない。そして、談話が出るそばから、村山談話を否定するような政治家の不規則発言が出てくるということで、その効果が非常に薄れてしまっているという実態があります。
しかし、より根本的には、ドイツの場合と日本の場合とでは、戦争責任、戦前の責任の裁き方、責任のありようが、当初から大きく違ったという問題があります。これは次回にしましょう。
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