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国連も動かした! 首相に働き掛け犯罪調査委員会設立

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(2)北朝鮮の人権問題

土井香苗
国際 NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
情報・テキスト
国連本部ビル
拉致問題、政治犯収容所問題、言論統制。世界でも類を見ない人権蹂躙が行われている北朝鮮。その国に国際社会としてNOを突き付けるため、日本政府に働き掛けて、国連に北朝鮮の人権侵害を調査する犯罪調査特別独立委員会を設立させた「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表の土井香苗氏。第2話では、世界を動かしたヒューマン・ライツ・ウォッチの取り組みを紹介する。(全3話中第2話)
時間:14:04
収録日:2016/03/03
追加日:2016/06/16
≪全文≫

●北朝鮮の人権侵害を2国間問題から世界的課題に


 この後は、具体的な仕事の内容と、われわれが解決しようとしている課題の内容など、二つほどご紹介したいと思います。

 まずは世界の状況ですが、活動している90カ国全てについて話しているといくら時間があっても足りませんので割愛しますが、こういった形(『夢がもてない──日本における社会的養護下の子どもたち──』)の調査報告書を、年間150冊以上、おおむね2、3日に一度、発行しています。全世界にいる約500名のスタッフが、日々、人権問題の調査を行って、報告書という形で発表しているのです。

 その90カ国のうちの一つが、先ほども申し上げた北朝鮮です。北朝鮮の問題については、われわれの活動を具体的にご説明したいと思います。北朝鮮には、拉致問題や政治犯収容所問題がありますが、他にも、表現の自由がなければ、当然公正な選挙もなく、あらゆる面で人権が蹂躙されている国なのです。しかし、それにもかかわらず、国際社会としては、北朝鮮に対しほとんど何の手も打ってこなかったのが現状です。

 例えば、ミサイルや核問題だと、安全保障理事会で、つい先日(3月2日)も北朝鮮に対する制裁を強化する決議が採択され、金融制裁をはじめ、その他非常に強い制裁が行われることになりましたが、この国際的な制裁は、安全保障に関するものです。一方で、人権問題も、国連にいわせれば、現代社会において他に類を見ないような深刻な人権侵害が長年続いているのですが、それにもかかわらず、国連にはほとんど何もしてこなかったという現実があります。他方、日本には拉致問題がありますので、2国間でなんとか問題を解決しようと動いてきていますが、ご存知の通り、小泉純一郎首相が拉致被害者の一部を取り戻して以来、何ら進展がない状況なのです。

 こういった国際社会の無関心と日本のデッドロック状態をなんとか変えたい、という思いから、私たち「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、北朝鮮の人権問題を、日本国と北朝鮮の2国間問題ではなく、核やミサイルと同じように、国際社会の一致した問題として圧力をかけていく方向に大きくシフトさせることに取り組んでおり、かなりの成果を上げています。


●安倍首相のリーダーシップで調査委員会設立を実現


 具体的に何をするかというと、国連や国連安全保障理事会が2国間問題を取り上げることはないので、この問題がもはや世界的な脅威であり、世界の普遍的な問題であるということを提起しなくてはなりません。まずは、北朝鮮における人権に関する国連調査委員会、すなわちCOI(Commission of inquiry)と呼ばれる犯罪調査特別独立委員会を国連に設置させることをストラテジー(戦略)として立てました。日本でいえば、検察庁の中の特捜部(特別捜査部)のようなものと考えていただければいいかと思います。

 そういった特別捜査を行う委員会ができたことで、世界で最も重大な国際犯罪である「人道に対する罪」という犯罪を、北朝鮮の高官やトップリーダーである金正恩氏などが犯しているかどうかということを、その委員会に調査してもらうというストラテジーです。そして、この委員会に世界的な法律家を任命し、北朝鮮が反論できないようなしっかりとした捜査を行い証拠を挙げ、将来的には刑事訴追ができるまでの証拠を集めることが目標でした。

 しかしながら、国連も政治の場です。このような委員会を立ち上げるということは、国連の人権理事会の決議を通さなくてはならないのですが、メンバー国である政府は北朝鮮の人権問題を解決したいと思っている政府ばかりではなく、自らが人権問題を抱えている、あるいは自らが人権侵害を行っている国も非常にたくさんありますので、決議を通すことは容易なことではありません。よって、誰かが、あるいはどこかの国がリーダーシップを取って、さまざまな国を説得し、ある程度対立的構造になることもいとわずに引っ張っていく国が必要になります。それが人権の世界的リーダーシップといえるのですが、日本は、残念ながら、こういったリーダーシップをこれまで取ったことはなかったと思います。

 私たちヒューマン・ライツ・ウォッチとしては、日本はそういった人権のリーダーシップを取る能力も実力もあると見込んで、東京の事務所をつくりました。そういった意味では、北朝鮮の人権問題は非常に適切な案件と考えましたので、日本の政府にアプローチをし、普遍的な北朝鮮の人権問題を調査することによって、拉致問題だけではなく、人権問題を2国間問題から多国間問題にレベルアップさせる、いいリーダーシップを発揮する題材ではないかと持ち掛けました。

 結果的には、安倍晋三首相がそれを聞いて、よい戦略だと思ってくださり、外交官に指示...
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