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メキシコ湾原油流出事故でも活躍した海中ロボットたち

自律型海中ロボット~深海に切り込む(5)活躍するROV

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
2010年メキシコ湾原油流出事故
(Deepwater Horizon)
人からロボットへ、海中探査の主役はすでに交替している。海底油田の開発にも事故処理にも、人の届かない場所で遠隔操縦機が実績を重ねているのだ。しかし、超深海の探査には無人であってもなお危険が伴う。海中ロボットの現在の状況を、自律型海中ロボットの権威である九州工業大学ロボット具現化センター長・浦環氏にうかがう。(全5話中最終話)
時間:10:57
収録日:2016/01/12
追加日:2016/06/20
タグ:
≪全文≫

●海底石油開発に活躍する「遠隔操縦機」


 1970年代に入ると、オイルショックのために石油の値段が高くなり、海底石油を開発しても採算が合うようになりました。海底石油を開発するには海底に行かなければなりませんが、当初、浅い場合にはダイバーが行っていました。しかし、だんだん深くなってくるとダイバー(環境圧潜水)では行けません。

 そこで3人乗りや2人乗りの小型有人潜水船で、いろいろな作業をしていました。しかし、それではお金がかかるし、危険性も高い。「遠隔操縦のロボットをつくろう」という機運が出てきました。1980年代になると、海底石油開発は有人潜水船に代わって、このような遠隔操縦機で行われるようになってきました。

 右上の写真は、1960年にアメリカの海軍が開発した遠隔操縦機です。この遠隔操縦機は、地中海に墜落したアメリカの航空機から水爆を拾い上げてくるという手柄を立てています。

 左上は、日本が1980年代につくった「DOLPHIN(ドルフィン)‐3K」、中央の下はアメリカのウッズホール海洋研究所が使っている「JASON(ジェイソン)」です。DOLPHINは引退しましたが、JASONはいま使われているものです。

 左下にあるのは、最近よく使われている大型の遠隔操縦機です。こうした大型の遠隔操縦機は、海洋開発のために使われています。

 最後に右下の写真は、アメリカが30年ほど前につくった「SCORPIO(スコーピオ)」です。なぜここに写真を載せたかというと、後で出てくる「えひめ丸」を引き揚げるのに使われたからです。えひめ丸は、ハワイ沖で潜水艦にぶつかって沈没した船ですが、その話は次の機会に譲りたいと思います。


●ROVを一躍有名にしたメキシコ湾の原油流出事故


 遠隔操縦機(ROV)の活躍ぶりが一般の人たちの間で一躍有名になったのは、2010年にメキシコ湾で起こった「ディープウォーター・ホライゾン」という事故以来です。

 ここはBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)社が持っている油田で、1500メートルの海底で石油を掘っていました。不手際があったために原油を引き揚げるパイプが切れ、洋上設備が火事になってしまいました。火事は消し止めましたが、海底からの引き揚げパイプが折れたため、そこから原油が大量に流出し、メキシコ湾が大変な油汚染に遭いました。

 そこに出てきたのが、遠隔操縦機です。原油がボコボコ噴出する現場に出かけていって、バルブを締めようと努力しましたが、なかなかうまくいかない。ようやく数カ月がかりで、これにふたをすることができたわけです。多くの遠隔操縦機が働いた現場でした。

 

●チャレンジャー海淵に潜った「かいこう」


 日本を代表する大型遠隔操縦機は、「かいこう」というROVですが、今はありません。

 かいこうは、1995年3月24日に、先ほどのドン・ウォルシュたちが潜ったマリアナ海溝のチャレンジャー海淵に潜りました。そこから海底写真をリアルタイムで中継してくれたわけで、多大な活躍をした遠隔操縦機ですが、残念なことに10年前にケーブルが切れて、どこかに行ってしまったのです。

 チャレンジャー海淵は、グアム島の沖合、世界で一番深い所だとお話をしました。そこで活動するためのかいこうの機構はどうなっているのかというと、母船からランチャーを経由してさらにケーブルで結ばれるという二段構えです。先ほどのディープウォーター・ホライゾンに使われたROVなどは1500~2000メートル級ですが、1万メートル潜って作業をするのは大変難しいものです。そのためにランチャー自体が1万メートルの深さまで潜り、さらに二次ケーブルを延ばして、ここで調査するという形式になっています。

 具体的には、100メートルの母船があり、その下1万メートルをランチャーとビークルが一体になった状態で降りていき、海底まで降りると止まります。この間を結ぶ1万メートルの長さのアンビリカルケーブルは、重さ11キロ、太さ40ファイという太いものです。

 ここから、細い二次ケーブルが出て、先端のロボットが調査するという形式になっています。ランチャーの水中重量は3トンです。これは釣りの錘のようなものと思ってください。空中重量は5トンですから、2トンの浮力があるわけです。

 ビークル側を結ぶケーブルは250メートルあります。ビークルの方は空中重量が6トンですが、浮量と重量が釣り合うように設計されていますので、水中に入るとゼロになります。ですから、これは250メートルの半径内を自由に動き回ることができます。


●海には多くのROVが沈んでいる


 2003年5月29日、和歌山の沖合い、水深4000メートルあたりで二次ケーブルが切れてしまったため、この...
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