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日本は外国に比べ、施設で暮らす子どもが多すぎる!

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(3)子どもの人権問題

土井香苗
国際 NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
情報・テキスト
『夢がもてない──日本における社会的養護下の子どもたち──』
日本の人権状況は世界約200カ国の中ではいい方だが、日本政府は人権問題に何も対応していないと考える国も多いと、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」日本代表・土井香苗氏は指摘する。2014年の調査報告書『夢がもてない──日本における社会的養護下の子どもたち──』が伝える日本の子どもの現状と、子どもの「家族と暮らす権利」の枠組み改善に向けた法律改正への動きを、土井氏がレポートする。(全3話中最終話)
時間:13:38
収録日:2016/03/03
追加日:2016/06/26
≪全文≫
●「夢が持てない」日本の子どもの人権問題

 もう一点、日本の人権問題についても少しお話ししたいと思います。日本の人権状況は、全世界約200カ国の中で比較すれば良い方だと言えます。そういう意味では日本が、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」にとっての人権課題国として特に注目度が高い国というわけではありません。日本は、「人権状況が悪い」ということではなく、「人権についてポジティブなレバレッジを効かせることができる国である」という意味で注目を浴びているのです。

 ですが、人権問題が日本にないわけではありません。日本でも、量的にそう多くはありませんが、ヒューマン・ライツ・ウォッチとしての調査、アドボカシー活動をしています。『夢がもてない──日本における社会的養護下の子どもたち──』(全89ページ)は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの東京事務所ができて以来初めてとなる調査報告書として、約2年前の2014年5月に発表されたものです。これは、血のつながった実の親と暮らせていない子どもたちの人権状況を調べた調査報告書です。日本では、そういった子どもたちの約9割近くが児童養護施設や乳児院といった施設で集団生活をしています。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査報告全てに共通することとして、こうした実態を調査した上で、その実態が国際法に適合しているのか違反しているのかを認定し、国際法違反の場合には、適合させるためにどんな政策の変更が必要かを提言しています。

 実際に日本の親と暮らせない子どもたち約4万人の状況を調べたところ、国連の「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」に違反している部分がかなり多くありました。中でも、最も違反の度合いが突出していると考えられる部分が、このデータに現れているように、子どもの「家族と暮らす権利」の侵害度合いです。


●子どもの貧困と「家族と暮らす権利」


 子どもは、学校に通う権利や暴力を受けない権利など基本的な権利をいくつか持っていますが、そのうちの一つに「家族と暮らす権利」があります。独りぼっちにされたり1人でどこかの集団に放り込まれて放置されるようなことがなく、特定の大人がいて、その人が親としてその子どもを幸せにする。一貫して愛情を持ち、原則としては一生の関係を持つということです。そういった特定の大人との安定した濃密な関係を持つことによって、子どもは安心でき、そして、成長していけるのです。そのことが実際に、精神面だけではなく、脳の発達などの面からも極めて重要であると示されているため、子どもの基本的な権利となっています。

 このデータから分かるように、実の親と暮らせない約4万人の子どものうち、例えば里親のもとに受け入れられていたり、新しく養子縁組をして法律上の実際の親子となるなど、代わりの家庭で家族として受け入れられている子どもは少なく、約1割しかいません。約9割、つまりほとんどの子どもが、施設で集団養育をされており、自分の親と呼べるような人のいない状況で暮らしています。他国では、子どもの家族を持つ権利がとても重要だと数十年前から認識されているため状況が転換しており、多くの先進国で、大部分の子どもが、おおむね里親や養子縁組のもとで暮らしています。

 こうした施設偏重で家族がいない子どもがほとんどという日本の状況は、子どもにさまざまな影響を与えています。精神的な不安定さ、例えば愛着障害と呼ばれる精神障害を持つに至るなど、対人関係がうまく築けなくなる症状を持つ子どもが多く、そのことが影響して、施設出身の子どもたちの大学などへの進学率が非常に低い、あるいは、ホームレスになったり福祉施設でお世話になったりする確率が非常に高いなど、経済的な指標の意味でも、非常にアウトカムが悪いという調査報告があります。ですから、「家族を持つ」という子どもの権利をしっかりと認め、尊重する政策に転換することが、子どもの貧困問題を含め、さまざまな問題を解決する糸口、ないしは大本になるだろうと考えております。


●児童福祉法改正へ。戦後初の大転換なるか


 そこで今、私どもが進めているのは、法律による枠組みの転換です。子どもが「家庭を持つ権利」を持っているということが、日本の法律ではどこにも確認できません。よって、仮に実の親と分離される場合、国家が次の家庭をしっかり与えるというようなことが、どこの枠組みにもないのです。そこで、子どもに「家庭を与える」という枠組みをつくることが、非常に重要だと考えています。もちろん枠組みをつくるだけでは足りません。実際に里親になってくれる人をもっと増やしていくなど、さまざまな政策と同時に行わなくてはなりませんが、しかしながら、枠組みの転換は、一番最初にやらなくてはならないことだと思っています。...
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