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難民がテロリストネットワークを利用しヨーロッパ入り!?

モスクワ国際安全保障会議(2)ロシアとシリア

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
テロリストが移民を利用しているだけでなく、移民もテロリストのネットワークを利用してヨーロッパに入り込んでいる――歴史学者・山内昌之氏は、第5回モスクワ国際安全保障会議でそのことを知ったという。ロシアはシリア情勢に大変詳しい国だ。そのロシアが、シリアとISについてどのように語ったのか。ラブロフ外務大臣の話を中心に、山内氏が明かす。(全4話中第2話)
時間:09:57
収録日:2016/05/09
追加日:2016/06/23
ジャンル:
≪全文≫

●ロシアは米ロ関係の緊張感を決して図らない


 皆さん、こんにちは。今回は、前回に引き続いて、4月27日、28日にロシアで開かれた「第5回モスクワ国際安全保障会議」に出席した私の印象と会議の内容をご紹介したいと思っています。

 ロシア政府はこの大会に力を入れており、セルゲイ・ショイグ国防大臣、セルゲイ・ラブロフ外務大臣、FSB(ロシア連邦保安庁)長官のアレクサンドル・ボルトニコフ大将などが国際テロ、安全保障に対する重要なメッセージを発していました。

 ラブロフ外務大臣も、もちろん基本的にはショイグ国防大臣と同じメッセージですが、外交官である分、独特な表現のあやがありました。いずれにしても、まず2人に共通するのは、ラブロフ外務大臣の表現を借りると、ロシアがシリア情勢に関して現実的に事態に対処している唯一の外国の当事者だと位置付けたことです。ラブロフ外務大臣は、シリア紛争でのロシアの態度は真剣そのものだと語り、シリア軍と協力していることも率直に認めました。そして、シリア政府と協力して行っているロシアの軍事干渉こそが、テロリストを屈服させ、敵対行為の停止に向けた環境を整えて、人道支援の供給、政治的正常化に向けたプロセスの開始をもたらすと主張したのです。その際、政治的正常化に向けたプロセスの開始は、もちろんアメリカとの協力関係の中でも可能だと述べ、ロシアは米ロ関係の緊張を決して強めないと強調した点に、ショイグ国防大臣と比べて、ラブロフ外務大臣の外務大臣たるゆえんがありました。

 その一方で、IS(イスラム国)に関しては、単なるテロの脅威というだけでなく、ISの存在、その冒険的な活動が各国主権の否定につながっていると述べ、ISは国際秩序の破壊分子であり、全ての国にとって許すことができないと、強い表現で批判していました。その上、一部で化学兵器を利用したことが報じられているように、化学的な知識や技術の高度化によって、ISがさらに危険な存在になる可能性が新たに浮上してきたと、ラブロフ外務大臣は述べています。

 それから、今起きている事態は、スンナ派対シーア派の闘争、すなわちサウジアラビアを軸とするアラブのスンナ派と、イランを軸とするシーア派、シリアのアラウィー派というシーア派分派による闘争という側面もあるけれども、一方では、10年来のイラン、シリア、イラク、リビアにおける米欧の軍事的、政治的な干渉・勧誘政策に注目すべきだということも、ラブロフ外務大臣は強調していました。


●無政府の時代が到来する可能性が現実的になってきた


 前回、ショイグ国防大臣の発言でも触れましたが、ラブロフ外務大臣もまた「上海協力機構(SCO)」という中国、ロシアを中心とする中央アジアの安全保障機構を強化する必要性を述べました。そして、名指しで、当日参加していた前アフガニスタン大統領のハーミド・カルザイ氏の参加を歓迎するというメッセージを発しました。カルザイ氏は2回目のセッションでアフガニスタンの代表として発言しましたが、これはアフガ二スタンのロシアへの接近を狙ったことでした。

 それから、ラブロフ外務大臣は現代を捉える上で印象的な言葉を述べました。それは、「本来、理性的な時代である現代に対して挑戦している。そして、アナーキー、無政府の時代が到来する可能性が現実的になってきた」ということです。「理性的な時代への挑戦によるアナーキーな時代の到来」、これはなかなか上手な表現だと思います。

 また、イランの核問題の平和的解決は、シリアやイラクなど他の国々や地域の問題の解決にもつながると、ラブロフ外務大臣は明言しました。しかし、イランの核問題が解決したかに見えた後、アメリカは依然としてヨーロッパでミサイルシステムの配備計画を進めています。この配備計画が変更されなければ、アメリカがイランの核問題の解決を目指した真の目的が何かについて疑念が残るだろう、とラブロフ外務大臣は語っていたのです。


●テロリストと移民のネットワークが重なりつつある


 他方、同じ日にKGBの後身であるFSB長官のボルトニコフ大将は、「ISが移民の合法的なチャンネルを利用している」という注目すべき発言をしました。しかも、テロリストとテロリズムが移民を利用してヨーロッパなどに浸透しているだけでなく、移民もテロリストが利用しているネットワークやチャンネルを利用してヨーロッパに入り込んでいるというのです。この場合、移民は「難民」という言葉に置き換えてもよいかと思います。移民・難民たちは、テロリストネットワーク、合法的なチャンネルなど、あらゆる経路を使って米欧に入り込んでいます。これが厄介なのです。

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