●消費税増税再延期が引き起こした議論
安倍晋三首相は先日、消費税の8パーセントから10パーセントへの引き上げを、来年(2017年)4月から2019年10月へ、ちょうど2年半延期すると発表しました。この発表は少し前から、そういうことがあるだろうと予想はされていたものの、やはり国内に非常に大きな議論を引き起こしていることは事実だろうと思います。
日本の財政状況は非常に厳しいものがあり、一刻も早く消費税を上げて歳入を確保しない限りは、財政健全化が遅れるだけでなく、過大な債務が将来において非常に大きなリスクになるのではないか。さらに言えば、赤字財政を続けていろいろな歳出を行っていくということは、将来世代に対して「負の遺産」を残すという意味でも非常に問題が大きいのではないか、という議論は当然あるわけです。
この財政全体の問題を詳しく議論するにはそれなりの時間が必要なのですが、今日はこの安倍首相が選択した「2年半の延期」の狙い、あるいはそれによってこれから考え得る重要な論点について、申し上げたいと思っております。
●財政健全化のための三つの手法
この問題を議論するためには、3×3、つまり三つの手法と三つの論点が必要になってきます。最初の「3」の方ですが、財政を健全化していくためには三つのチャネル、あるいは三つの手法があるというわけです。
一つは「増税」、つまりは消費税や所得税などの税率を上げることによって、歳入を確保するということ。これが第一の方法です。二番目は「成長」と言っていいと思うのですが、経済成長率を高めたり、あるいは成長自身がなくても物価が上がっていくことによって、名目上の所得が増えていく、それによって税収が増え財政にプラスになるという面があります。三つ目は「歳出の改革」です。社会保障だとか、社会資本整備だとか、地方財政だとか、こういった財政の支出のところを厳しく見直すことによって歳出を抑えていく。この三つを使って財政をどう安定化させるか、ということが問われているのです。
●財政健全化に関する三つの論点
もう一つの非常に重要な視点は、日本の財政には三つの異なった課題があるということです。
一つは、今足元で毎年大きな財政赤字が出ているわけですが、一刻も早くこの財政赤字を減らしていく、黒字にもっていくということ。これが第一の論点です。第二の論点は、日本は高齢化が進んでいくために、5年後、10年後、さらには15年後、20年後をみると、最初は医療費が膨れ上がり、次に介護費用が増えていき、財政に非常に大きな負荷がかかっていくという点です。この対応を今から準備していく必要があるというのが第二の論点です。第三の論点は、日本は既に膨大な債務を抱えているということです。一説には1000兆円を超える公的債務があると言われていますが、これをいかに縮小していくかということを考えないと、将来非常に大きなリスクが表面化するのではないかと思われます。
整理すると、三つの手法、つまり増税と成長と歳出の抑制、そして三つの側面、すなわち財政赤字の解消と高齢化に対する備え、債務の圧縮という、この3×3が今回の消費税増税の延期でどのように影響を受けるか、これが今後の財政を考える上で非常に重要だと思います。
●増税延期の狙いと意味-成長と財政赤字解消
安倍総理が増税延期を選択したのは、増税だけで財政を健全化させようと思っても、デフレに戻ってしまったら、あるいは成長が止まってしまったら、元も子もないという考え方が原点にあるからだと思います。
現実に、この3年半くらいの安倍内閣において、デフレ脱却の芽が出てきて、企業の収益が増し、名目GDPも増え始める中、税収はかなり増えてきています。したがって、増税という部分以外で、成長によって財政がずいぶん楽になることを実感しているわけです。ですから、この流れを止めてはいけない、ということなのだろうと思います。
問題は「では増税を封印したということは、どういう意味を持つのか」ということですが、これを先ほどの三つの目的、財政赤字の縮小と将来に向けての備え、それから債務の圧縮という点で考えてみます。非常に重要な論点として、消費税を引き上げるタイミングを2019年10月にしていることを指摘したいと思います。ご案内のように、政府は2020年までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字にもっていくという目標を立てています。これが財政健全化の第一の論点、財政赤字を圧縮するという目的に対応するわけですが、今回の消費税に関する一連の報道の中でも、政府はこの目標の旗は降ろさないと言っています。
非常に微妙なタイミングであるわけですが、消費税を予定通り2019年10月に上げるとして、政...