●日本が「黄金の国」と呼ばれた理由は海底にあり
それでは、シリーズ第3回は、「海のジパング計画」について申し上げたいと思います。
いま私がサブPDとして力を入れて取り組んでいる仕事なのですが、自律型海中ロボットに密接に関係します。このプログラムは、総合科学技術・イノベーション会議が主催する、「SIP」というプログラムの中で行われています。
その前振りとして、「ジパング」とは何か。皆さんもご存じだと思いますが、日本は昔「黄金の国」と言われていました。これは中尊寺の金色堂です。それから、1397年に建立された金閣寺も有名です。
こちらはそういった金を産出していた、代表的な日本の鉱山として有名な小坂の鉱山です。小坂の鉱山は、黒鉱(くろこう)という鉱石を出していました。黒鉱は、熱水鉱床にある鉱石と同様の性質を持ちます。つまり、小坂から産出された黒鉱が熱水起源であったことが、科学的な事実として分かっています。しかし、ここはもう閉山されています。
それから、佐渡の金山も有名です。やはりここも1989年に閉山しました。
現在も金を掘っているのは、鹿児島にある菱刈鉱山です。ここでは1トンあたり40グラムの金を含む金鉱石、世界最高品位のものを産出しています。この菱刈鉱山も、熱水活動によって鉱床が形成されたと考えられています。
そういう意味で熱水活動、つまり熱水鉱床の中でも陸上に出てきていたものは、実際的に使われてきたと言っていいでしょう。
●海底の「マルコ・ポーロ時代」は始まったばかり
次に、海のジパング計画をご説明します。
「海のジパング」とは何か、どういうことをしようとしているのか。まず「ジパング」とは、マルコ・ポーロの付けた名前で、彼は『東方見聞録』を通じて、「黄金の国=ジパング=日本」という存在が、大陸の東にあることを世界に知らしめたわけです。マルコ・ポーロは、1271年から1294年にかけて1万5千キロを移動する旅を成し遂げ、東アジアの状況をヨーロッパに知らせました。そのことにより「大航海時代」が始まると言ってもいいかもしれません。
陸においてはすでにマルコ・ポーロの時代は終わってしまいました。しかしながら、海底におけるマルコ・ポーロの時代はいま始まったばかりである、と私たちは思っています。
つまり、海底に「ジパング」の秘密が隠されている。日本の海底には、山のような黄金が眠っていて、それを取り出すことで日本は金色に輝いていくのだ、ということを期待しているわけです。
ここで重要なのは、海底ではマルコ・ポーロの時代は始まったばかりという点です。
●ロボットによる「新たな産業革命」が日本の課題
SIPのプログラムが創設された背景をご説明します。これは、安倍晋三内閣総理大臣による「私たちは再び世界一を目指します。世界一を目指すためには、なんといってもイノベーションであります」(第107回総合科学技術会議)の発言を受けて始まりました。
それまで内閣府に付いていた「総合科学技術会議」を「総合科学技術・イノベーション会議」に変更し、そこに予算を付けました。従来の総合科学技術会議は予算を持たない、提言だけの組織でした。科学技術の研究と、そこに割り振る予算についての提言です。それが、今回からは新たに予算を持ち、積極的に打って出ることを始めたのです。
また、2年前の2014年5月6日、安倍首相はOECD閣僚理事会の基調演説でさらに以下の発言をしました。
「ロボットによる『新たな産業革命』を起こす。そのためのマスタープランを早急につくり、成長戦略に盛り込んでまいります」
つまり、イノベーションを起こすためには「ロボットによる産業革命」ということを打ち上げたわけです。
「ジパング計画」からすると、海中はロボットの世界にほかならず、非常に重要な提言にあたります。海中では遠隔操縦機も働いているのですが、私はこの発言の尻馬に乗ったかたちで「自律型海中ロボットによる産業革命を起こす」と標榜しているわけです。
●「海には資源も仕事もある」と広言した安倍総理
さらに昨年(2015年)7月20日の第20回『海の日』特別行事総合開会式の席上で、安倍内閣総理大臣は以下の演説をされました。
「日本の輸出入貨物の99パーセント以上、国内輸送の約4割が海上輸送に依存しています。日本人にとっては、海がない生活を想像することができないほど、海は身近な存在なのです」
そう、一般の人はそうは思っていないでしょうが、実はそれほど関係が深いのです。
「近年、日本の周囲には、メタンハイドレートをはじめとして多様な資源が眠っていることが分かってきました。海には資源も仕事もあります。ぜひ次世代の...