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ロボットでは「船体」だけでなく「船長」もつくる

自律型海中ロボットの仕事(2)ハードとソフト

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
「きれいなロボットです」「プールの中でスイスイ泳げます」というだけでは、ロボットはユーザーの信頼を得られないと、九州工業大学社会ロボット具現化センター長・特別教授の浦環氏は語る。では、どうしたらロボットは信頼を得られるのか。浦氏が自身のロボット開発ポリシーを語る。(全4話中第2話)
時間:09:10
収録日:2016/05/17
追加日:2016/08/22
≪全文≫

●ロボットの実績を語らない限り、性能は分からない


 われわれの自律型海中ロボットとは何かについて、もう少し詳しく見ていきましょう。ロボットの特徴は、「ハードとソフトが一体」になっていることです。これは船ですが、見えているのはハードウェア、船の船体です。「きれい」、「客室がいい」、「ディスコがある」というのはハードに属することです。

 しかし、ハードだけでは船は動きません。動かすのは船長、船員です。特に重要なのは船長で、彼がリーダーシップを取ります。ところが、船長の性能は見ただけでは分かりません。性能を把握するには、彼が経験してきた航海、彼の冒険談、どのような危険を回避してきたかといったことを知らなければなりません。この船長、船員と一体になって、初めて船は仕事をするわけです。

 しかし困ったことに、われわれはなかなかこの船長や船員の性能が分かりません。この船はCosta Concordia(コスタ・コンコルディア)というイタリアの船で、実際にはこのようになってしまいました。数年前にニュースになったので覚えている方もいるかもしれませんが、船が傾いたとき、船長がさっさと逃げてしまったことが問題になりました。乗客は、船長がそういう人だとは全然分からなかった。事故が起こって初めて知ったのです。

 ロボットの場合、ハードとソフトは一体になっていますから、私たちはロボットのソフトウェア、つまり「船長」もつくっているわけです。そのソフトウェアの性能は、動かして初めて見えるものです。ロボットを見るときは、ハードウェアだけでなく、そのソフトウェアのパフォーマンス、どう動くかを見なくてはなりません。逆に言えば、ロボット研究家は、ソフトウェアのパフォーマンスを示さない限り、誰も信用してくれません。船長の航海履歴や冒険譚によって、われわれが船に乗っても大丈夫だと分かるのと同じように、ロボットも「きれいなロボットです」「プールの中でスイスイ泳げます」といったことだけでは駄目で、どのような冒険をしてきたのかを語らない限り、信用されないのです。

 現在、私たちの自律型海中ロボット・AUVは、さまざまな実績を示すに至っています。もちろん、われわれのグループのロボット以外にも、JAMSTEC(海洋研究開発機構)や海保(海上保安庁)のロボットもいろいろと活躍を始めています。例えば、後で出てくるわれわれのr2D4は、インド洋のドードー溶岩平原を観測して成果を上げています。そうした実績を、よくロボットを使う人にお知らせすることで、そのロボットの「船長」がきちんとしていることが分かるわけです。


●ロボットは自分自身で全ての行動を決める


 私はもともと東京大学の生産技術研究所にいましたが、そこではこの画面に示す考え方でプロジェクトを進めてきました。私はこうした考え方を今でも大事にしています。

 「ロボットは単独で仕事をこなさなければならない」。自律型ですから、当然自分で行うわけです。

 「ロボットは自分自身で全ての行動を決める」。彼らは誰かに相談したりはしません。「今、具合が悪いのだけど、どうしましょうか?」などとは聞かないのです。

 「ロボットはボスに頼るのが嫌いである」。つまり、「浦先生、どうしましょうか?」「浦先生、お願いします」とは絶対に言いません。仕事を始めたら、最後まで自分でやり抜くロボットをつくらなければなりません。

 似たようなことですが、「ロボットはやたらな助言を求めない」。つまり、「Aを取ろうかBを取ろうか、どうしましょうか?」と音響通信でわれわれに聞いてはいけないのです。全て自分で判断するということです。

 「ロボットは価値を生み出す」。ただ楽しく潜っていては駄目なのです。何か新しい価値を海の中から持ってこない、仕事をしないロボットは役に立ちません。

 「ロボットは必ず帰ってくる」。先ほども言ったように世界のいくつかのロボットは沈没していますが、基本的には、「われわれのロボットは必ず帰ってくる」と約束して海の中に行かせます。当然、そのための手立てをきちんとしておかなくてはなりません。

 最後に、「ロボットは成長する」。つまり、最初から難しい仕事ができるわけではなく、やさしい仕事から少しずつ難しい仕事ができるようになっていくのがロボットです。その仕事がロボットにとって難しいのかやさしいのか、ユーザーの方々はなかなか分かりません。そこで、ロボットをつくっている私たちが、「その仕事は難しいので、まずこうしたことを経験させて、少しずつ目的の仕事ができるようにロボットを成長させていく必要があります」といったストーリーをつくります。困ったことに、普段、われわれロボットをつくる者たちは、ついついユーザーの希望をたくさん聞いて...
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