テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

悪の枢軸支援?アメリカの路線転換と捉えたサウジアラビア

アメリカとサウジ同盟関係の終焉(2)なぜ変化は起きたか

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
サウジアラビアとアメリカの関係は、21世紀最大の二国間関係だと歴史学者・山内昌之氏は言う。日本にとっても関係が深いことはいうまでもない。前回に続き、サウジ建国以来結ばれてきた戦略的な同盟関係が、いかにして壊れていったかを検証する。(全7話中第2話)
時間:08:03
収録日:2016/07/26
追加日:2016/08/25
カテゴリー:
≪全文≫

●サウジアラビアとアメリカ関係を支えた三つの柱


 皆さん、こんにちは。サウジアラビアとアメリカの関係については、以前にも短いお話をする機会がありました。21世紀最大の二国間関係ともいうべきサウジアラビアとアメリカの関係は、今後どうなるのでしょうか。これは、日本にも関係の深い重要なテーマに他なりません。

 これまでサウジアラビアとアメリカとの戦略的な同盟関係は、主として三つの側面から語られてきました。その第一は、共産主義との対決です。第二はイスラエルのパレスチナ占領に対するアラブ・ナショナリズム急進派との共通した戦いでした。第三には、石油・エネルギー資源の安定供給をアメリカとサウジアラビアがともに図ることでした。

 ところが、ソ連の解体や、最近ではシリア戦争の勃発を機に、こうした三つの柱は、すでに壊れて久しいものとなりました。もはや同盟の三つの柱は存在しないといっても過言ではありません。


●共和党寄りのサウジアラビア、上院時代からの批判者オバマ


 一般的にいって、これまでのサウジアラビアや王室が、民主党に対して親近感を持つことはありませんでした。これは、サウジアラビアの現在の王室とバラク・オバマ大統領の民主党政権との関係をこじらせる大きな要因になりました。反対に、サウジアラビアが伝統的に同盟関係として重視してきたのは、共和党でした。

 オバマ氏が上院議員の頃からサウジアラビアに対する敵意を隠してこなかったのは、大変重要なエピソードです。シカゴ選出の上院議員だったオバマ氏は、エジプトとサウジアラビアの政権による国内抑圧、すなわち国民に対する人権や言論の圧迫をやめるようにジョージ・W・ブッシュ大統領に要求し、ホワイトハウスに強硬に申し入れた経緯がありました。アメリカのサウジアラビアへの過剰な石油依存を止めさせようとしたのも事実です。

 あえて申しますと、オバマ氏は、政治家としての年来の宿願を大統領になって達成したのです。すなわち、サウジアラビアとの関係を事務的に処理しようとしたと言い換えることができるかもしれません。


●両国関係の終焉を示す三つのメルクマール


 二つの国の関係の変質あるいは終焉を指し示す、三つの里程標(メルクマール)があります。

 第一は、アブドッラー前国王が批判した、オバマ大統領によるダマスカス空爆の中止です。オバマ大統領は、もしもアサド政権がシリアの民衆に対して生物・化学兵器のいずれかを使ったならば、シリア政府に対する制裁を科すことも辞さず、アサド政権への空爆を行うと言っていたのに、それを実現しませんでした。

 第二は、1979年のホメイニによるイスラム革命とアメリカ大使館人質事件以来、イランと国交を断絶していたアメリカ合衆国政府が、両国関係の事実上の正常化に向けて修復に動き出し、昨年(2015年)の夏には最終核合意にこぎつけたことです。このことは、アメリカが中東への姿勢を変更し、最も重視し信頼する同盟国をサウジアラビアからイランにシフトチェンジしたという印象を内外に示すことになりました。サウジアラビアはそれに驚いたわけです。

 第三は、オバマ大統領がアメリカの『アトランティック』というマガジンの2016年4月号で長いインタビューを受け、「サウジアラビアとは、そもそもいかなる国か」ということについて、包み隠さず自分の感想を述べたことです。つまり、サウジアラビアがワッハーブ派の超保守的な原理主義領有を他の穏健なムスリム国家に輸出してきた事実を、公然と批判したことに他なりません。

 サウジアラビアのトゥルキー王子(トゥルキー・アル・ファイサル)は、「アメリカが友人を裏切り、軸足をイランに移した」として、大変厳しく批判しました。


●オバマの新政策を重要な路線転換と受け止めたサウジアラビア


 サウジアラビアはアブドッラー前国王以来、シリア戦争の終結を目指し、アサド政権を倒すために、アメリカが中東政治においてもっと指導権(イニシアティブ)を発揮してくれることを期待していました。

 シーア派の革命国家であるイランは、革命防衛隊やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラをシリアに投入し、イエメンでは事実上革命防衛隊がサウジアラビアと戦いました。つまり、サウジアラビアにとってのイランは、潜在的・仮想的な敵国というよりむしろ現実的な敵として存在してきたのです。さらにシリアにおいては、ロシア軍とともにアサド政権を支援しているのがイランとその革命防衛隊です。イランとロシアとアサド政権は、かつてのジョージ・W・ブッシュ大統領の表現を使うならば、いわば「悪の枢軸」なのです。サウジアラビアは、オバマ大統領の新政策を、アメリカの重要な路線転換と受け止めたわけです。

 オバマ大統領は4月にサウジアラビア...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。