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アメリカでは優良企業の実に35%が同族経営

ファミリービジネスとAI(1)注目されるファミリー企業

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は、異色の「学歴」の持ち主だ。中学卒業後の青春時代を、ブラジルとシンガポールで過ごした。柳川氏はそこで、経済のあり方が国にとっていかに重要であるかを痛感したという。そんな柳川氏が、世界的に注目されるファミリー企業とAIを題材に、新時代の経営を語る。(2016年7月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第1話)
時間:09:37
収録日:2016/07/25
追加日:2016/09/23
≪全文≫

●「最終学歴は中卒」から東大へ


 東京大学の柳川範之です。私の経歴をご存じの方も多いかと思いますが、少しだけ補足します。

 私はかなり長い間、最終学歴が中卒でした。一応、日本の公立中学は出たのですが、その後、父親の勤務の都合で一緒にブラジルに行きまして、サンパウロとリオ・デ・ジャネイロに4年半ほど過ごしました。来月(8月)からオリンピックが始まりますが、あのリオ・デ・ジャネイロのビーチにいました。基本的にはビーチで寝転んで遊んでいたという感じです。今度、ビーチバレーの会場になるというコパカバーナ海岸、さらにその向こう側に『イパネマの娘』で有名なイパネマ海岸があり、大体その辺りで寝ていたというのが、私の4年半でした。

 今、リオは「危ない危ない」と言われていて、渡航をどうしようかと迷うマスコミの関係者も多いらしいのですが、私がいた頃はもっと危なかったのです。ブラジル経済は今よりもっとひどく、ハイパーインフレーションの時代でした。インフレ率が2,000パーセント、あるいは3,000パーセントという時代で、毎週のように物の値段が上がっていく。そんなとんでもないところで治安も悪かったのですが、ビーチで寝転んで4年半を過ごし、それから日本へ帰ってきました。

 現在は名前が変わりましたが、大検(大学入学資格検定試験)という高卒の資格を取る試験があったので、それを取ったのですが、結局は入学資格検定試験なので、最終学歴が相変わらず中卒という感じでした。その後、父親の勤務の都合で今度はシンガポールに行きました。シンガポールは、ご存じの通り大変な管理の国で、ブラジルと正反対でした。ここにビーチはなかったのですが、幸いなことにマンションにプールがあったものですから、今度はプールサイドに大体寝転んでいました。

 ブラジル、シンガポールにいながら、慶応の通信教育課程に通うという形で、4年ぐらい在籍していました。当初は会計士を目指して勉強していたのですが、だんだん経済学の方が面白くなってきました。それで大学院でも行けないかと思っていた時、東大の授業を聞きに行くといいよと言われたので、東大の授業を聴講しに行ったのです。

 ご存じの通り大学の授業は、別にIDチェックをするわけでもなくそのまま入れてしまいます。最初はドキドキしながら、変装メガネか何か掛けて入っていきました。でも変装のような変な格好をして見つからないようにするほど、たいていの教師が当てるというパターンがあります。後ろの方にいたのですが、「そこの後ろから2番目の、右から4番目の君」とか言われて当てられて、ひどい目に遭ったりしました。それでもだんだん調子に乗ってきて、前の方に出て来ました。さらに図々しく、分からないところを質問しに行ったのです。


●人生を変えた恩師・伊藤元重の一言


 その時、質問に行ったのが、今は東大から学習院大学に移られました伊藤元重先生(学習院大学国際社会科学部教授)です。伊藤先生に質問したら「君はどこのゼミなの?」と聞くのです。嘘をつくわけにもいかないので、「いや、どこのゼミも入っていません。東大生でもありません」と言ったら、伊藤先生が「うちのゼミに来ないか」と言ってくださったのです。これが私の人生を変えた一言です。

 そういうわけで、東大生でないまま伊藤元重ゼミに図々しく参加し、図々しくそのまま卒業までいて、今でもちゃんとOB名簿に名前が残っています。OB第7期か8期ぐらいで、卒業生ということになっています。そういうことで、その後2年遅れて東大の大学院に入ったのですが、そこからはまともなルートに戻ってきたという感じです。一般的な東大の教員に比べると、いろいろな経験をしてきたので、少し発想は違っているかと思います。それが良いのか悪いのかは分かりません。

 日本では考えられなかったようなブラジルの貧困の状況などを見ると、やはり経済は大事だと思いますし、そういうこと(貧困状態)には比較的簡単になってしまうことが分かります。今こうやって先進諸国にいると、貧困の国や治安の悪い国は非常に特殊な国だという印象があると思うのですが、実は先進国でも少し経済政策に失敗すると、簡単にそういうところに陥ってしまいます。こういうことを実感し、経済や経済政策は大事だということを感じました。そんなことを遠因にして学者をやっている感じです。こんな話をしていると終わってしまうので、本題の方に入ります。


●ファミリー企業の方がパフォーマンスは高いという事実


 今日のスライドは、全体として大きく二つの話をまとめています。一つはファミリービジネスの話、もう一つはAI(人工知能)やロボットが発展してくる中で、産業構造がどのように変わるのかという話です。後でお話しするように、この二つ...
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