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日本の医療制度の特徴…国民皆保険・フリーアクセス・現物給付

日本の医療を考える~その特徴と課題(1)医療制度を支える三つの特徴

今村聡
元・公益社団法人日本医師会 副会長
情報・テキスト
日本の医療には「国民皆保険」「フリーアクセス」「現物給付」という三つの特徴がある。この三つの柱が支える医療制度の下で、世界最長の平均寿命や高い保健医療水準は達成されたのだと、公益社団法人日本医師会副会長・今村聡氏は言う。今回は、それらの特徴を分かりやすく解説していただいた。(全6話中第1話)
時間:08:35
収録日:2016/08/18
追加日:2016/09/25
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≪全文≫

●三つの特徴を持つ、日本の医療制度


 こんにちは。初めまして。日本医師会の今村聡と申します。

 これから、日本の医療にまつわるさまざまなお話をさせていただきたいと思います。まず、日本の医療の特徴について触れたいと思います。

 日本の医療の特徴というと、大きく三つあります。一番目は「国民皆保険」、二番目は「フリーアクセス」、三番目が「現物給付」といいます。耳慣れない言葉だと思いますので、一つ一つ説明させていただきたいと思います。


●日本国民は、全員が公的医療保険に属している


 まず、「国民皆保険」について、お話をします。

 日本国民は原則として全員が、いずれかの公的な医療保険に属することになっています。これを国民皆保険といいます。その方がどのような地域に住まれているか、どんな職業に就かれているかということにかかわらず、です。

 例えば、自営業者や無職の人などは、市町村の運営する国民健康保険、大企業の方は会社の健康保険組合、そして中小企業に勤める方などは政府の運営する「協会けんぽ」などに加入しています。他にも公的な医療保険として、国家公務員は国家公務員共済組合、地方公務員は地方公務員共済組合、私立学校の教職員は私学共済などに加入しています。

 こうした保険を運営する主体は「保険者」と呼ばれて、現在、日本には約3500の「保険者」があります。


●世界に誇る日本の「国民皆保険」達成への道のり


 この「国民皆保険」は、誰もが必要なときに、必要な医療を受けることができるようにするための仕組みで、世界的にも誇るべき制度です。

 日本の公的医療制度の始まりは、1927年にさかのぼります。当時は、限られた労働者のみが健康保険に加入することができ、多くの国民は公的医療保険に加入できない状況でした。終戦後も、国民の3分の1が公的医療保険に未加入であり、「国民皆保険」の達成は日本の社会保障の大きな課題となりました。

 その後、国の審議会等で「国民皆保険」の必要性が議論されたことを受け、1958年に新しい「国民健康保険法」が制定されました。そして、1961年に現在の「国民皆保険」が実現することになったのです。


●自分で医療機関や受診科が選べる「フリーアクセス」


 二つ目の特徴は「フリーアクセス」ということです。「フリー」は「自由に」、「アクセス」とは「つながることができること」、つまり、患者さんが、必要なときにいつでも自分で医療機関を選んで、受診することができる仕組みになっています。

 日本では体調が悪いと感じたら、患者さんは自ら医療機関を選んで受診します。これが可能となっているのは「フリーアクセス」という日本の制度があるからです。大病院・中小病院・診療所など医療機関の規模や、内科・外科などの診療科を問わず、いつでも患者さんが受診したいと思ったときに自由に受診先を選ぶことができるということです。

 このように医療機関へのアクセスが自由な国は、世界では例外的なのです。そこで、次に海外の実情について、ご紹介したいと思います。


●海外の医療機関は「フリーアクセス」ではない


 イギリスでは、医療機関へのアクセスが制限されています。

 イギリスの医療は「National Health Service(NHS)」という、国そのものが運営する制度の下で提供されています。患者さんは地域の診療所の医師(=家庭医)に登録されます。「大きな病院にかかりたい」と思っても、最初の診療は必ず家庭医で受ける必要があり、家庭医の紹介がなければ、専門医や病院は受診できない仕組みになっています。

 また、フランスでは、イギリスほどの強制的な登録制ではありませんが、やはりかかりつけ医の紹介なしに他の医師を受診することを制限しています。かかりつけ医の紹介なしに受診すると、医療費用が非常に高額になります。

 アメリカでは、民間の医療保険が主体なので、患者さんは保険会社に指定された医療機関でしか受診ができなかったり、使用できる薬剤や治療法までが制限されたりしています。

 日本の「フリーアクセス」による医療機関へのアクセスの良さは、病気の早期発見、早期治療に寄与しているといえるでしょう。


●「現物給付」だから、どこでもいつでも受診できる


 三つ目の特徴は「現物給付」です。「現物」に対応する言葉が「現金」で、民間の保険会社などが用いる方法です。もし病気になったとき、医療保険から現金が支払われるので、それを用いて自分で全て賄ってくださいというのが「現金給付」です。

 一方、お金ではなく、必要な医療そのものが給付される仕組みを「現物給付」といいます。診察を受け、注射や手術、また薬を投薬されることなど、医療の全てが保険によって受けられるので...
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