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金融緩和限界論とマイナス金利批判、日銀政策を検証する時

黒田バズーカの影響とこれから―成長戦略との関係で読む

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
日本銀行
「今、日本にとって重要なのは“成長戦略”です」と語るのは、学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏だ。それはなぜか。ソフトバンクやオリックスなどの具体例を挙げながら、黒田日銀の低金利政策と成長戦略の関係を伊藤氏が明らかにする。
時間:11:50
収録日:2016/08/25
追加日:2016/09/24
ジャンル:
≪全文≫

●日本銀行の政策を整理する必要がある


 安倍内閣が発足して最も注目されたのが日本銀行です。2013年4月、黒田東彦さんが日銀総裁になり、「バズーカ」といわれる世界を驚かせるような新しい金融政策で経済を大きく揺さぶったわけです。ご記憶のように、安倍内閣以前は一時1ドル80円を超えるような超円高だったのが、それによって急速に円安に向かい、一時は1ドル120円を超えるところまでいきましたし、株価なども連動して動きました。

 ただ、ここに来て「金融緩和限界論」がいわれています。例えば為替は、現在世界の多くの国が同時に金融緩和している影響もあって、1ドル100円前後の攻防ラインまで円高に戻ってきていますし、株価も一時は日経平均が2万円を超えましたが、今は1万6000円台で動いています。日本銀行は今年の初めにマイナス金利にまで踏み込みましたが、金融機関の収益にマイナスの影響があったことで批判の声が強くなっています。この辺りで一度、日本銀行の政策がどのような状況にあるのかを整理する必要がありそうです。


●世の中を揺さぶる政策は何回もできるものではない


 常日頃思うのですが、金融政策は二つに分けて議論する必要があります。一つは、マーケットに喝を与える、ショックを与える政策です。黒田東彦総裁の下で行われた2回の「バズーカ」、つまり量的緩和政策とマイナス金利政策は、その成果がどこまであったかは別として、ガツンと大きく世の中の流れを変えようとする政策でした。これらの政策は、日本経済にデフレマインドが蔓延していて、デフレが当たり前だと思っているところに、「そうじゃない。社会はデフレから穏やかなインフレに大きく変わっていくのだ」というメッセージを提供しました。日本銀行が一時使った言葉を借りると、「期待を変える」効果があったのです。

 ただ、よく考えてみれば当たり前の話ですが、世の中を揺さぶったり、驚かせたりする政策は何回もできるものではありません。現に2回の量的緩和については、これ以上は難しいのではないかという見方がありますし、マイナス金利にいたっては本当に良い政策なのかどうかの議論がまだ収束していません。ガツンとやるのが黒田日銀の特徴であるという見方に立てば、限界説が出てきて当然です。


●低金利が投資や物価上昇にどこまで影響するか


 もう一つ、緩和を持続するか、引き締めるかという金融政策があります。そうした観点でデフレから脱却するために重要なのは、金利をある程度低く抑えておいて、その低い金利に経済が反応することを待つ、あるいはマネーサプライをある程度増やすことで物価が上がるのを待つ。こうした政策を粘り強く行うことです。おそらく日本銀行がこれから問われるのは、繰り返しマーケットを揺さぶることではなく、今の緩和状態をいかにデフレ脱却につなげていくかでしょう。日本銀行は9月後半にこれまでの金融政策を総点検し、検証すると言っていますが、そこでの大きなポイントは、今までのやり方を大きく変えていくというよりも、今後の金融政策をデフレ脱却につなげるためにどうすれば一番いいのかを、再度冷静に議論することでしょう。

 そうした点で見ると、金利がかつてないほど低くなっていることが重要です。一部の金融機関には長期金利までマイナスなのは問題だという意見もあり、現在の金利水準がいいか、もう少しイールドカーブが立った方がいいかという議論は残ります。しかし、いずれにしても低金利が重要なのです。ただし、低金利が続くこ...
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