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キャビアで分かるロシアのカスピ海パワーとユーラシア戦略

プーチンのユーラシア戦略(1)地政学で読む3つのワード

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
キャビア
歴史学者・山内昌之氏が、プーチン大統領の政治戦略を「ユーラシア地政学」という観点で読み解く。そのために山内氏は一見バラバラのように見える3つのワードを結び付けて解釈を試みた。それは「カスピ海」「イラン」「軍事演習」の3つだ。これらは一体どう結び付いているのか。国際情勢と歴史、双方に精通する山内氏ならではの地政学レクチャー。(全2話中第1話)
時間:11:02
収録日:2016/09/14
追加日:2016/09/29
≪全文≫

●ユーラシア国家ロシアによる政治的変動が進行している


 皆さん、こんにちは。まず、次のような3つの組み合わせをお聞きになって、皆さんはどのようにお考えになられるでしょうか。何を連想されるでしょうか。

 ブレグジット(Brexit)、つまりいわゆる6月23日の英国EU脱退を決定付けた国民投票。次に、サンクトペテルブルク会談。これはウラジーミル・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領による8月9日の会談です。そして、9月2日のウラジオストク会談。安倍晋三総理とプーチン大統領が、最も直近に行った会合です。こうしたことの延長に、12月15日に予定されている山口県におけるプーチン・安倍両首脳の会談を、連想することも可能かと思います。

 これらは一見、バラバラのように見えますが、いずれもユーラシアの一番西の島と一番東の島が関わっている大きな政治変動を意味していることになります。つまり、ユーラシア大陸の西から東に至るユーラシア国家としてのロシアが、なんらかの形で介在した大きな変動が今、着実に進行していることを、私たちは理解するという視点を持つべきかと思います。


●3つの観点で地政学的に読み解くプーチンの戦略構想


 ロシアはユーラシアパワーとして外交、あるいは政治戦略というものを常につくりあげてきましたが、ロシアがユーラシアの西におけるウクライナ問題に取り組む姿勢と、ユーラシアの東においては北方四島の問題に絡んで対日関係を調整しようとする姿勢は、各国の政治家には通常、別個の問題として考えられてきました。また、各国の外交官たちも普通、これらを一つのまとまった戦略的構図の中で位置付けるということはあまりしません。ところが、政治家であるプーチン大統領はしばしば常套手段として、これらのユーラシア各地において生じている政治現象を、ロシアの利益を発展させるために他の地域における影響力をてこにしながら利用してきました。

 例えば、次の3つで1つの構図を描ける方は、プーチンの戦略構想というものについて、相当詳しい方かと思います。1つはカスピ海。2つ目はイラン。3番目はNATOとの国境において8月15日の週に行われた軍事演習。こうしたことがどのように結び付いているのか、ということを読み解くのが、通常の国際政治学や歴史学とは異なり、政治学と歴史学を援用しながら戦略的に考える地政学につながります。


●あえて遠いカスピ海からシリア攻撃したロシア


 まず第一にカスピ海を活用するという意味は、既に私がこの10MTVでもお伝えしたように、ロシアは「カスピ海艦隊」というフリート(ロシア語でいうフロート、海軍の戦闘艦の集団)を有しており、そこからシリア作戦としてISやヌスラ戦線(シリアにおけるスンニ派過激派組織)を攻撃するために、ミサイルを発射したということは、以前お話ししました。カスピ海はユーラシア大陸の核心部に位置する重要な十字路であり、歴史を通してロシア帝国、ソ連邦、そして現在のロシア連邦に非常に重要な意味合いを持ってきました。

 過去数カ月、このカスピ海艦隊、しかも規模の小さいフリゲート艦やコルベット艦を使って、数十発のミサイルを1500キロも離れたシリアに、あえて発射したということが、伝えられました。当然、プーチン大統領はシリアにもっと近いミサイルサイトがあるのに、なぜそれを利用しなかったのか、という疑問が湧きます。それは、例えば自分たちの領土内にある北カフカースのチェチェンやダゲスタンやイングーシといった地域、つまりそうした陸上からミサイルを発射することも可能だったわけです。なのに、なぜカスピ海から撃ったのか、ということです。


●「カスピ海パワー」と意思表示をしたロシア


 もちろんこれは、中東情勢や中東の観点から見れば、シリアに対する威嚇であるとか、あるいはイランに対する協力であるとか、いろいろ言うことは可能なのですが、私たちがもし、「ユーラシア地政学」という観点から考えるとすれば、シリアそのものとの関係もさることながら、むしろカスピ海というものに目を据えて、カスピ海の沿岸諸国に対するロシアの強い意思表示であった、と見る必要があります。

 カスピ海はその中が領海、あるいは領有問題をめぐって割れています。したがって、そこに眠っている石油や天然ガスといった地下資源の所有や分配をめぐって、争いが絶えません。関係諸国はロシア、カザフスタン、トルクメニスタン、そしてイラン、さらにアゼルバイジャンとなっています。こういった地域においては、例えば、貴重な食料資源であるキャビアの場合、キャビアを腹の中に収めたチョウザメがカスピ海を周遊するわけでありますが、この腹に一杯はらんだキャビアを一体どこで取るかというと、一般的に...
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