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抽象的な「家訓」が世代を超えて安定経営を生み出す?

ファミリービジネスとAI(3)「透明性」と「家訓」

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
なぜファミリー企業のパフォーマンスは高いのか。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は、高い能力と十分なモチベーションに加え、二つのことを指摘する。一つが経営の「透明性」を高めることであり、もう一つが「家訓」を重視することだ。ファミリー企業でなくとも真似したくなる、経営の極意とは何か。(2016年7月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第3話)
時間:11:48
収録日:2016/07/25
追加日:2016/10/07
≪全文≫

●日本のファミリー企業が良く見える本当の理由


 この先の話は、上場企業のトップの方には若干言いにくいことなのですが、なぜ日本のファミリービジネスが、子孫の代がやってもパフォーマンスが良いかという問題に対するわれわれの答えを述べます。ファミリービジネスがアメリカでは良くなく、なぜ日本だけいいかというと、日本のファミリー企業が特別良いわけではなく、アメリカに比べると、普通の会社のパフォーマンスが悪すぎることと関係があります。

 俗にいう、ROE経営などといわれている話です。普通の会社は、コーポレート・ガバナンスがうまくいっていないので、パフォーマンスが悪すぎるのです。だからファミリービジネスの方がよく見えるのです。逆にいうと、普通の会社はもう少しファミリービジネスを見習って、パフォーマンスを改善するべきポイントがあるということです。そこに、日本の経済の問題を解く非常に大きな鍵があるのだろう、というのが一つのポイントです。

 もちろんここで申し上げるのは一例で、ファミリービジネスの会社の全てが良いわけではありません。ファミリービジネスであればパフォーマンスが良いとか、ファミリービジネスであれば優れているというわけでは当然ありません。今まで話してきた話は、あくまで平均的に見た場合の話です。問題を起こしている会社も中にはありますし、残念ながらうまくいかなかった会社で、トップがかなり私的にお金を使ってしまうといった問題も起こっています。


●経営の透明性向上がパフォーマンスを高める


 説明を少し飛ばしてしまいましたが、ヨーロッパの研究などで分かるのは、ファミリービジネスのパフォーマンスを良くしていく上で大事なことは「経営の透明性を高める」ところだということです。経営の透明性を高めて、中できちんとしたガバナンスが行われていることを社内外に示していくことが、結局はパフォーマンスを高める役割を果たすといわれています。このあたりが、日本の大きな特徴だろうと思います。

 繰り返しになりますが、経営のパフォーマンスとは、能力とモチベーションの掛け算です。だからその子孫のオーナー経営者は強いモチベーションを持っていることが多く、それゆえそのビジネスを受け継ぎたいというところが非常に重要なポイントなのです。

 皆さんにどこまでご参考になるのか分かりませんし、既に十分ご存じかもしれませんが、この後でもう少し申し上げたいのは、次のようなことです。ファミリー企業はパフォーマンスが良いのですが、だからといってファミリー企業だと安住しているのは問題があるということです。そこで、ファミリー企業がやるべき重要なポイントを二つ説明します。

 一つは、先ほど申し上げたような透明性です。特に周りから見たときに社内の透明性が高いことが、圧倒的な信頼感をもたらします。一般的な会社でこれだけコーポレート・ガバナンスが議論されていて、ガバナンス・コードのような話をされている中では、組織の風通しを良くし、社内で行われていることの透明性を高めていくことが重要だろうというのが一つ目のポイントです。


●「家訓」がファミリー企業を支える


 二つ目は、スライドに書いてあるように、「家訓」というものです。私が今一緒に仕事しているのは、一橋大学の宍戸善一(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)という法学者の先生ですが、彼と一緒に4~5年前から、かなりいろいろなファミリー企業、それも老舗のファミリー企業のヒアリングを相当数、行っています。そうした会社への調査を行う中で、われわれが面白いと思った重要なポイントが「家訓」なのです。ファミリーの会社の中で、この「家訓」が重要な役割を果たしているところが結構多いのです。

 普通の会社の話でいえば、コーポレート・アイデンティティや社内文化などといった話に近いと思います。このファミリー企業の「家訓」の話からアイデアを得て、一般のファミリー企業ではない会社でも、会社の目的や理念のようなことを、トップはもっと言っていかなければいけないという話を、講演などでもずいぶんしています。今日は、そういう「家訓」の話をしたいと思います。

 少しだけ真面目な話になりますが、コーポレート・ガバナンスに関する最近のアカデミックな議論での大きなポイントは、非金銭的なモチベーションです。その会社の株を持っているから、その株のインセンティブで頑張って働くとか、あまり株を持っていないとサボるなど、これまで経済学者はこうしたコーポレート・ガバナンスの議論をしていたのですが、金銭的なインセンティブ、例えば金銭が増えるとか減るとかいう話ではなく、もう少し非金銭的なモチベーション、経済学でいうところの非金銭的なインセンティブが、会社のパフォーマンスをかなり決めるとい...
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