●中東協力現地会議での基調講演を頼まれドバイへ
皆さん、こんにちは。
先週(2016年9月第4週)の週末から日曜日にかけて、アラブ首長国連邦のドバイに行き、帰りはアブダビ経由で戻ってきました。9月25日にドバイで「中東協力現地会議」という集まりが行われたのですが、そこには400名以上の参加者がおりました。中東協力現地会議は官民合同の、中東情勢に関わる分析、あるいは最新情報の交換などを目的とするもので、日本の経済産業省の肝いりで中東協力センターが主催し、そこに在中東の日本国大使をはじめ、商社、製造業ほか各種産業の現地代表者や現地法人の社長の方々が参加するという集まりでした。
私は初日の基調講演を頼まれて、出かけていきました。そこで、いくつかの問題について改めて、つぶさに整理する機会がありましたので、今日は皆さまに、ドバイで私が話してきたこと、考えてきたことについて、少しお話ししたいと思います。
●中東を地政学的観点から8つの要素で考える
まず、中東の地政学(geopolitics)、戦略地政学(geostrategy)が大きく変わっているということが、全ての参加者の問題関心でしたが、なかんずく私はそれを8つの要素に分けて考えることが適当ではないかと、提議しました。
1番目はシリア戦争の行方とシリア分割の危険性、もしくは可能性です。2番目はクルドの民族問題と独立国家化の可能性です。3番目はクーデター未遂事件が起こったトルコにおけるその後の厳しい内部粛清の進行と、トルコ民主主義の試練について。4番目は「ビジョン2030年」を出し、国家の未来について基本的な見方を打ち出したサウジアラビアと、そのビジョン2030年の行方、そして王位継承に関わる政治的な安定性の問題です。5番目はイランの対米関係、ひいてはシリア戦争への過剰な関与をイランが今後どのように解決するのか、という問題です。6番目としては、ユダヤ人国家イスラエルの変質、あるいは国際関係における孤立状況です。7番目は、エジプトをはじめとするスンナ派アラブ国家の弱体化という問題ですが、今それが顕著になっています。最後は、最近の日本のみならず、国際関係においても全体としてあまり聞くことがなくなってきた「中東和平」という問題。すなわちパレスチナ問題の公平、かつ安定した解決を目指した中東和平の将来が暗くなっているという現実についてです。
●シリアの命運を握るアサド大統領の今後
ではまずシリアにおいてですが、米ロの間で協調し妥協したはずのシリア戦争の停戦合意が失敗し、シリア北部の拠点都市であるアレッポの市民たちが、医療、教育、そして基本的な生活物資など、全てにおいて人道的危機に瀕しているという問題が解決されないまま、シリアの内戦が激しく再開されたことは、ご案内の通りです。
「アサド大統領はどうなるのか?」というこの問いこそが、シリア問題の解決の一番の基本になります。つまり、シリア問題を正しく解決し、かつ人々の生命を救うための重要な条件として、反政府勢力やその背後にあるアメリカやEUをはじめとする西側諸国、またアラブのスンナ派諸国はトルコとともに、「アサド大統領は退陣するべきだ」と語っています。しかし、それに対してロシア、イランといった国々は、「アサド大統領は選挙によって選ばれた政治家であり、その大統領を外からの力や圧力で倒すのは穏当ではない」という考えです。
●「連合による統一国家シリア」という理想的シナリオは不可能に近い
今、シリアにおいて問われているのは、現実的シナリオを見据えるということです。理想的シナリオを考えるのは、いともたやすいことですが、統一国家シリアを昔のように再建することはなかなか難しいのです。私の考えでは、難民や移民があれほど出て、人口の3分の1以上が難民化し、国内外に散ってしまったような国における土地と住民との関係は、もはや私たちが知っている昔のシリアではないということです。
したがって、空白になった地域にまったく別の人々が住んでいる、という現実があるのです。こういう現実を前提に、スンナ派、シーア派の一派であるアラウィー派、そしてクルド人、トルコ系民族であるトルクメン人、さらにキリスト教徒という人々が、何らかの形で連合、または連邦的な形態を維持して、統一国家シリアを苦心して守る、あるいは再建するというシナリオはあり得ると思います。しかしながら、シリアを昔のように再建することはやはり非常に難しいのが現実である、というのが私の考えです。こうした見方に対しては、会議のフロア(参加者)からも質問が寄せられ、やはりシリアを一体的に捉える方が良いのではないか、という疑義も出されました。もちろん私は、そういった理想的なシナリオを否定はしません。
しかし、現実に変化した中東の地政学...