テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

人工知能(AI)の苦手なことは「言語理解」

ファミリービジネスとAI(6)人間がAIより有利な点

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
AIと人間を分けるのは「言語理解」だ。言語を理解するためには単語の意味だけでなく、それが使われている背景や文脈の理解も必要になるため、その全てをAIに理解させることは難しい。これはイラストの理解にもいえることだ。よって、今後人間がAIに勝つとすれば、コミュニケーション分野にあると、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は指摘する。(2016年7月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ファミリービジネスと産業構造の変化」より、全8話中第6話)
時間:10:32
収録日:2016/07/25
追加日:2016/10/28
≪全文≫

●人工知能に対して人間が有利な点は何か


 では(AIに対する)人間の相対的な有利性は何なのか。人間の強みはどこにあるのかに関する解説です。これについては、本当ならAIの専門家にきちんと聞いた方がいいのですが、社会科学者なりの私の理解を申し上げます。現状でのAIの強みは、ビッグデータにあります。すなわちデータの蓄積が重要なのです。ディープラーニングは必要なデータ量を大きく下げることに成功し、比較的少ないデータでもたくさんのことが分かるようになってきました。しかしそれでも、データの蓄積が命です。

 そう考えるとデータの蓄積が使えない、データの蓄積による学習が使えない分野は、人間の方が相対的に強みがあることになります。それは、「全く新しい組み合わせを考える」ことです。つまり、過去のデータがないため、全く新しい組み合わせを考えようとしても、それらの個別性が強く、過去のデータがデータとして使えない。こういう問題に関しては、人間の方が相対的に有利性を持つということが分かっています。

 その中で、相当大きな課題が人間の言葉を理解することなのです。これについては、AIの専門家が今かなり苦労していろいろやっています。私の友人で、一緒に研究している新井紀子さん(国立情報学研究所情報社会相関研究系教授)という方がいらっしゃいます。ご存じの方もいるかと思いますが「ロボットは東大に入れるか」といって、東ロボくんをつくるというプロジェクトを進めています。そういう意味で彼らも、AIを必死に研究して、入試問題を解かせている研究者です。

 驚くべきことに、中堅クラスの大学は現在完全にコンピュータの実力で入学できます。つまり中堅クラスの大学入試のレベルは、コンピュータに負けています。かなり上の方の大学は、まだ勝てません。勝てない理由は、実は本当の意味の学力の問題ではありません。コンピュータが勝てない理由が別にあります。それは言語の話です。


●人工知能には言葉の理解が難しい


 言語を理解することはとても難しい。それに関していえば、実は単純な翻訳技術の精度は相当上がっています。例えばGoogle翻訳ですが、細かいところまでは分からないけれども、おおよそ何を言っていることか分かります。実はこれがかなりできるようになりました。精度が相当上がっているはずなので、ドイツ語やフランス語の文章などを日本語に翻訳するというのは、割とできるようになってきているのです。

 大まかな外国語の理解は簡単なのですが、それを超えた言語の理解をするためには、人間の言語の理解に背景知識を相当必要とします。言葉の単語の意味だけ分かっていても、その背景の歴史的な経緯や、(例えば会話する)二人の人間性、あるいは社会のコミュニティーの雰囲気などを反映します。同じ言葉を話していても、意味合いが違っているということがあるため、実はそういう背景知識や個性がすごく強い。そのため、AIに全てを理解させることは難しいのです。

 よく例に出す話ですが、サッカーのワールドカップの監督に外国人が来ます。私は最近までブラジルにいたので、ワールドカップになると寝不足になっても見るタイプなのですが、日本チームの監督はずっと外国人で、それぞれに通訳が付きます。あの通訳の人は、全然正しく翻訳していません。NHKの番組で、過去の通訳の経験者3人ほどで鼎談(ていだん)をしている番組がありました。これが大変面白く、言語を翻訳するとはいったいどういうことかについての本質が見えてくるような番組でした。

 そこで言われていたことは、「正しく伝える」「文字通りに翻訳する」ことが、監督の言葉を正しく伝えることではないということです。文字通り正しく伝えてしまうと、間違った意図として受け取ってしまうことがたくさんあるため、わざと違った言葉に置き換えるのです。「ライオンが何とかをした」という比喩があるらしいのですが、その比喩をそのまま伝えると、日本人には全く伝わらない。場合によると、ものすごく勇敢にやるという意味に取られてしまいます。でも本当は、そんな意味では全然ないのです。そのことわざは、その言葉の歴史的な背景の下で出てきているからです。そこで通訳は、言葉を完全に言い換えてしまうのです。話を聞いていると、それは翻訳ではないだろうといったことを話しています。でもそれが必要なのです。そういうことは、AIにはできません。

 ここに、人間の強みがあります。コミュニケーション能力の大事なポイントがあります。人間同士のコミュニケーションは、AIには完璧にできないのです。個別化が非常に強いからです。こうやってお話をして、微妙なニュアンスを伝えるのは、AIには無理で、人間だけがやれることなのです。


●「東ロボくん」の不得意科目は何か


 もう一つ、先ほどの東ロ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。