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市価2億円!網走沖合でイバラガニモドキの大群に遭遇!

「ツナサンド」の日本近海調査(2)北海道沖の水産資源

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
深海を連続撮影しながら航行できる自律型海中ロボット「ツナサンド」。学術調査に貢献しているのはもちろん、産業・ビジネスに直結する画期的な成果を上げている。北海道区水産研究所と共同で行った水産資源調査で、彼らが見つけた「2億円のお宝」とは? 九州工業大学社会ロボット具現化センター長・浦環氏が語るツナサンドの活躍とロボット開発の秘訣。(全2話中第2話)
時間:09:50
収録日:2016/05/17
追加日:2016/11/02
≪全文≫

●次は高級魚のキチジだ!


 われわれはこれに味をしめて、もっと水産として貴重な調査はできないかと、いろいろ考えました(もちろんベニズワイガニも価値がありますが)。そこで候補になったのが「キチジ」です。キンキ、メンメなどとも呼ばれる高級魚で、北海道・東北沖にいますが、資源量がどんどん減っています。このキチジの生態はとても難しく、よく分かっていないことがある。具体的にどう分布しているかも分かっていません。これを調べようと考えました。先ほど言ったように松里さんに写真を持っていったら「素晴らしい」と言ってもらえたので、これを調査するために水産総合研究センターの北水研(北海道区水産研究所)と一緒に北水研の船・北光丸を使ってツナサンドでキチジの調査をする提案して、「よし、やろう!」ということになり、2013年に開始します。

 若干、キチジの説明をします。前々から言っているように、重要なこととして、われわれが調査するターゲットは一体何であるかをロボット学者は知らなくてはなりません。熱水鉱床とは何かを知らなければならないのと同様、キチジとは何かを知らなければいけない。これがキチジで、実は500~600メートルの深い海の底に住んでいます。一緒に研究している北水研の濱津さんたちがずっと調べているのですが、キチジがオホーツク海で捕れる量はこんなふうに減っているという大きな問題があります。


●海にダメージを与えず様子を把握できる


 キチジの体長分布については、トロールで調べて、こういう分布が分かっています。この辺り(体長20センチメートル未満)がいません。いない理由はいくつかあります。別に資源がないわけではなく、子どものころは泳ぎ回っているので底引きでは捕れない(その後、海底に着底して大きくなっていく)とか、移動するとか、いろいろあるのですが、ともあれ、現在キチジの体長分布は20センチメートルから25センチメートルの範囲です。問題は、これが徐々に小さくなって、大きいものがいなくなってしまったことです。

 これを今はどうやって調べているかというと、トロールで調べています。トロール網を海底で引いて、海底にあるものを捕るわけです。海底にキチジがいると、パカッと捕れます。しかし、幅何メートルものトロールをずっと引くと、いわば海底をブルドーザーで引っかき回すように、海底のものを根こそぎ捕ってしまいます。また、深いところをトロールするのはとても大変です。深さ500メートル、600メートルのところを、網をずっと引くのは時間も手間もかかります。そこで、うちのロボットがパチパチと写真を撮ってくれれば、それをしなくていいし、捕らなくていいし、資源はそこにあったままになります。


●孤高のキチジの暮らしぶりが分かってきた


 ロボットが撮った写真がこれです。ロボットは高さが分かっているので、キチジの大きさも分かります。何センチメートルのキチジがどこにどのくらいいるか。左に大きいキチジがいます。体長20数センチで、割と大人です。右のキチジは小さい。海底の写真を見てください。キチジたちは非常に孤独です。ここは普段は真っ暗です。これは写真を撮影するためストロボをたいているから見えていますが。キチジは寄り添ってはいません。われわれは今までずっとオホーツクでキチジの調査をしていますが、オホーツクではペアになったツーショットキチジは一度も写真を撮ったことがありません。彼らはじっと孤独で、0度の水の中で、10年も20年もかかってゆっくり成長していきます。不思議です。私はこれからさまざままな教訓を得ました。最近、孤独であることがさも悪であるかのように言いますね。「孤独でかわいそう」と。違うのです。孤独こそ生物の生きていく道なのです。キチジたちは孤独に生きている。孤独は楽しい。孤独をもっと楽しもう。「あいつは孤独だからかわいそう」ではなく、「孤独だからあいつはいいんだ」となっていくといい、というのが、このキチジ調査でわれわれが得た重要な価値観です。

 われわれは毎年5月末からこのキチジの調査に行っています。これは一番最初に行った時に調べた、キチジの多寡分布です。網走の沖合にある北見大和堆という出っ張りの斜面のところにキチジが生息することが分かっています。


●再び余録で大発見。海底に「2億円」!?


 実はこの調査をしている中で、2年前に大発見がありました。それはこれです。何かというと、深さ700メートルでキチジを調べていたところ、急にこれが写真に写ったのです。これは何かというと、イバラガニモドキというタラバガニの仲間です。で、このタラバはなぜここにこんなに集まっているのか。先ほどのベニズワイガニとはまた違った集まり方をしているし、下のスケールが1メートルですから、一個体が大きい。タラバたちがこんな...
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