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坂本龍馬の実像は没後150年ドラマなどで歪められてきた

ほんものの坂本龍馬(1)現代の歪んだ維新志士像

松浦光修
皇學館大学 文学部国史学科教授
情報・テキスト
wikimedia commons
現代日本で坂本龍馬は大人気である。しかし、私たちが見ている龍馬は、彼の本当の姿なのか。それは、実像とはかけ離れた“ソックリさん”なのではないか。日本思想史を専攻し、江戸時代への「留学」経験もある皇學館大学国史学科教授・松浦光修氏が、現代の龍馬像を「洗濯」する。(全10話中第1話)
時間:09:32
収録日:2015/11/28
追加日:2016/11/25
≪全文≫

●現代の坂本龍馬像への違和感


 こんにちは。皇學館大学の松浦です。これまで私は、全国各地でいろいろな講演をしてきました。内容は政治、神道、教育、歴史、その他いろいろです。おかげさまで、地方の小さな私立大学の、しかも日本の歴史を専攻している、地味な者にしては、さまざまな方々との出会いがあり、ありがたいと思っています。本日は、坂本龍馬のお話をいたします。

 このお話は、すでに主要な部分が、ほぼ活字になっています。初めは月刊『正論』平成22(2010)年11月号に、「龍馬伝への大いなる違和感」として掲載されました。これは、当時放送中だったNHKの大河ドラマ『龍馬伝』が、極めて歴史を歪曲したものであるということを、史料に基づいて批判したものです。それが、一昨年12月に発売された別冊『正論』20号にもう一度掲載され、その際に少し増補しました。その別冊『正論』20号は3回も増刷され、その中には、私が一昨年、新たに書き下ろしたものも収録されています。タイトルは、「ここまでやるか 抗日ドラマ垂れ流しの大罪」というものです。NHKの歴史ドラマを4本取り上げ、それがいかに反日自虐史観に毒されたものであり、かつ歴史をねつ造した悪質な代物であるか、ということを書いていますので、お読みいただければと思います。


●江戸時代から現代日本を眺め直す


 さて、お話を始めます。これまで私は、いろいろなことを書き、いろいろなことを語ってきましたが、そもそも専門は日本思想史です。思想史というと非常に難しそうですが、思想とは、つまり“人の心”のことです。ですから思想史は“人の心の歴史”、日本思想史であれば“日本人の心の歴史”ということになります。要するに、昔の日本人たちがどんなことを感じ、どんなことを考えていたのかということを研究するのが、日本思想史という学問です。

 その日本思想史の中でも、特に私は幕末維新の頃に活躍した大国隆正という学者の研究を17年間集中して行い、平成15(2003)年にそれで博士号を取得しました。幕末維新という時代に限っても、その時代の人々がどんなことを考えていたのかということは極めて多様で、文献も膨大な量が残されているため、一生かかっても研究しきれるものではありません。ですから私は、歴史研究の専門家として、幕末の一人の学者に集中して、徹底的に調べ上げ、1冊の研究書を書いたわけです。

 けれど言うまでもなく、それぞれの時代にはそれぞれ底辺に共通する思いがあります。それを私は、「時代思想の基層」と呼んでいます。分かりやすく言えば、同時代の人々に共通するものの考え方です。

 今も、それはあります。例えば、どんな保守的な人でも、現在「古語」で会話している人はいません。『源氏物語』の言葉で生活している人もいなければ、近松門左衛門の「浄瑠璃」の言葉で会話している人もいません。私たちは、良くも悪しくも現代人です。すべての人は、自分では意識せずとも、現代の枠の中で、すべての物事を考えています。ですから、現代という時代を客観的に見るためには、現代とは違う別の時代のものの考え方を、心を白紙にして徹底的に学ぶことが必要です。

 そのうえで現代を見ると、これまでとは違った見え方がしてきます。私は若い大学院生の頃、一時期、現代の文章を読むより江戸時代の文章を読む時間の方が多い、という生活を送っていました。ですから、幕末維新という時代を、今の一般の方々よりはかなりリアリティを持って感じることができます。いわば私は、若い頃、江戸時代に「留学」してきたようなものです。今どきは、世界のどこに行っても日本人がいて、日本人の留学生もどこにでもいるようですが、江戸時代に「留学」した人は、なかなか珍しいのではないかと思います。


●龍馬は矮小化されて理解されている


 私は、西郷隆盛や吉田松陰に関する本を書いていますが、これらは仕事の合間をぬって、極めて短時間で書いたものです。短時間で書けたのは、多分若い頃、江戸時代の留学体験があったから書けたのではないかと思っています。そのため私は、時代劇を見るとなんとなく懐かしい気がします。ところが、よく見ていると、ほとんどの場合、私がその留学で見てきた世界と、全く違うということが少なくありません。

 平成22年の大河ドラマ『龍馬伝』もその一つでした。龍馬といえば、昔から司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』(1963~66年)が有名で、私も若いころ熱心に読んだ記憶があります。そして、あれを、ほぼノンフィクションだと思い込んでいたのですが、実際の江戸時代に留学体験をして、後で思い返してみると、当たり前のことですが、あれもやはり小説です。フィクションに過ぎないということが分かります。それでは、そう...
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