テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

海底油田開発と共に進歩してきたROVの活躍

遠隔操縦機~重作業ROV(2)世界各地での活用事例

浦環
東京大学名誉教授
情報・テキスト
H-Ⅱ GTV
九州工業大学社会ロボット具現化センター長・浦環氏が、海底油田開発と共に進歩してきたROVが行った、世界各地のさまざまな事例を紹介する。日本の場合は、世界で最も深くまで潜った「かいこう」がH-Ⅱロケットのエンジンを回収した例や、ハワイ沖で沈没した「えひめ丸」の事件が印象深いものである。(全5話中第2話)
時間:10:51
収録日:2016/06/15
追加日:2016/11/28
タグ:
≪全文≫

●オイルショックがROV開発を進めた


 1973年に、第一次オイルショックが起こります。オイルショックが起こった結果、油の値段が急に上がります。そうすると、海の底から石油を取ってくることが採算に合うようになります。ROVを使ったり、ドリリング装置でドリルをしたりというやり方は、海では大変コストが高いのですが、油の値段が高くなったことで、それができるようになってきた。これが非常に大きな転機になって、海底油田の開発が進みます。大型の重作業ROVがいろいろ開発されていきます。さらに1978年には、第二次オイルショックが起こります。この時代、アメリカ、イギリスを中心として世界中で、いろいろな重作業のROVが開発されました。とても活気があった時代です。

 ところが1986年に入ると、油の値段は暴落します。そのために海底油田の開発意欲が急速に萎み、ROV技術の開発は大体ここまでで終わってしまいます。その後、ゆっくりと開発は進むのですが、油の値段が非常に重要な要素であり続けます。海底が開発されるかどうか、そこにかかってきています。


●世界中で活躍したROV


 その後も、ROVたちはさまざまな活躍をします。有名な事例は、インド洋のモーリシャス沖で南アフリカ航空機が墜落した時のことです。墜落が起こった際、いったい何が原因で墜落したのかを調べることは非常に重要です。テロなのか、どこか具合が悪かったのか、何かが爆発したのか。それを調べるために、フライトレコーダーを回収します。フライトレコーダーは、6,000メートルの海底に落ちても壊れないようにできています。そのレコーダーは自分から音波を発信して、ここに落ちているということを教えてくれます。ですから飛行機が墜落すると、急いで音響装置を出して、どこにフライトレコーダーが落ちているかを探し、拾いに行きます。モーリシャスの沖合では、4,000メートルからアメリカのROVであるGeminiⅡがこれを拾ってきました。これはとても画期的なことでした。

 それから、1995年の「かいこう」です(これは後で説明します)。この日本のROVが、世界で一番深い1万1,911メートルの海底に潜りました。これは1960年にドン・ウォルシュたちがバチスカーフ・トリエステ号で潜って以来、初めてのことです。人の目が、リアルタイムで世界最深部を見たということです。

 その後、1997年に「ナホトカ」というロシアのタンカーが日本海で沈没しました。それによって油がどどーっと海へ流出しました。石川県能登半島などが、重油で汚染されてしまいます。しかしこの時、流れていったのは船の前半部のみです。実は船の後半部は、2,500メートルの日本海に沈んでしまいました。そこにまだ6,000トンの重油が入っている。その重油が入っている船尾の状況がどうなっているかを、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が保有しているドルフィン‐3Kという日本のROVが調べに行きました。油がどう出ているのか、船がどう壊れているのかを調べに行ったのです。


●日本のロケットエンジン開発を支えたROV


 1999年には、日本のH-Ⅱロケットのエンジンを探しに行きました。これは非常に画期的なことでした。当時、H-Ⅱは日本の主力大型ロケットだったのですが、続けて爆発してしまいました。その事故原因を調べるには、爆発したエンジンそのものを探しに行き、それを見なければ分からないことがあります。太平洋に落ちたH-Ⅱのロケットを、1995年に最深部に行った「かいこう」が見つけてきます。それによってH-Ⅱロケットのエンジンのどこが悪かったかという事故原因が解明され、その後、H-Ⅱは連続して打ち上げに成功します。この「かいこう」が、墜落したエンジンを見つけてきたことが、非常に大きなことなのです。2,900メートルの広い海の中で、いったいどこに沈んだのか。これは「プロジェクトX」で特集されましたので、ぜひ皆さんにも見ていただきたい。どれほど苦労して探しに行ったかが、ドキュメンタリーになっています。ただこれは見つけただけで、翌年に実際に回収したのはアメリカのRemora6000というROVです。これは非常に残念なことでした。


●「えひめ丸」沈没事故の思い出


 2001年、ハワイ沖で大事故が起こりました。愛媛県の水産高校の船「えひめ丸」が、ハワイ沖でアメリカの原子力潜水艦に衝突されて沈没し、乗船していた生徒たちが何十人も行方不明になって亡くなりました。これを、アメリカがROVを使って引き上げます。これもROVがなければできない作業で、非常に有名な事例です。

 実は、「ニュースステーション」をやっていた久米宏氏が、この事故があった時に「浦さん、あなたは海中ロボットの専門家だから、ニュースステーションに来て、ちょっと話をしてくれないか」と連絡をくれました。午後1時ごろだったのですが、その日に収録、というか、あれはリアルタ...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。