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トランプ大統領誕生で米国金利はどう動く?

金利はどこへ行く?長期停滞論とトランプ大統領誕生

植田和男
第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授
情報・テキスト
東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏がトランプ大統領誕生を機に変化を見せる米国金利の動向を分析。長く続く金利下降トレンドの原因と背景は何か。市場はトランプ大統領の何に期待をしているのか。米国の金利動向を多角的に分析し、世界市場の今後のトレンドを探る。
時間:18:27
収録日:2016/11/24
追加日:2016/12/06
≪全文≫

●トランプ大統領決定後、米国金利、ドル、株価上昇へ


 先日、アメリカの新しい大統領がドナルド・トランプ氏に決まったところですが、その後、米国の金利が急上昇しまして、同時にドル高、米国株高、日本からいいますと円安、日経平均の上昇が起こっています。今日はその中でも、米国の金利の動向に焦点を当て、いくつかの側面から考えてみたいと思います。

 そう申しますのも、トランプ大統領決定までは、金利がしばらく下降トレンドをたどっており、それに対応して長期停滞論のような話も非常に盛んであったからです。そのような中、ここにきて急に長期金利が上昇したという点をどう見たらいいのかということは、皆さん関心のあるテーマかと思いますので、一緒に考えてみましょう。

 まず、直近一カ月前後の米国長期金利10年債の動きですが、表をご覧いただきますと、このあたり(2016年6月後半から9月末あたりまで)の低いところをはっていたのですが、トランプ大統領決定の瞬間あたりから急上昇しまして、1.8ほどだったものが足元では2.4あたりまでに上昇してきているという動きになっています。繰り返しとなりますが、これに伴ってドル高、米国の株高も発生しています。


●直近の実質金利、期待インフレ率から金利上昇を分析


 金利上昇をもう少し詳しく分析してみるために確認しておきますと、ご覧いただいたのは通常「名目金利」と呼ばれるものです。普通、エコノミストや学者はこれを実質金利と期待インフレ率に分解して考えます。名目金利の上下はインフレに対する予想が上下する部分と残りの実質金利と呼ぶ部分、この2つからなっていると考えます。つまり、実体経済に影響を与えるのはこの実質金利の部分と考えるのが普通です。ただ、難しいのは、期待インフレ率がなかなか直接観察できないため、したがって実質金利も本当は直接には分からないということです。そうはいっても、債券市場にインフレ期待を現すような商品がありますので、それを頼りに債券投資家が見た期待インフレ率をグラフにしてあり、名目金利からそれを引き算して実質金利を計算することができます。

 そういう中で、物価連動債に現われた期待インフレ率を、引き続き米国の10年債について調べてみると、同じ期間については赤い線のような動きとなります。つまり、期待インフレ率はここ数週間、少しずつ上昇してきているということが分かります。実は、このあたり(7月末)から上昇してきており、トランプ大統領決定よりも少し前から、アメリカでは期待インフレ率がごくわずかですが上昇を始めていたことが分かります。それに今度の大統領選挙が火をつけたという感じになっています。

 ただ、引き算した残りの実質金利をご覧いただきますと、こちらもトランプ大統領決定以降、少しですがはっきりと上昇していることが分かります。したがって、名目金利の上昇は若干のインフレ期待の上昇とそれから実質金利の上昇からなっており、後者には多少は米国経済が良くなるのではないかという期待感があるのではないかと思いますが、いずれにしても上昇は両方から起こっていることが分かります。


●長期的には実質金利も自然利子率も下降トレンド


 以上がここ一カ月ほどの動きですが、冒頭で申し上げました長期停滞論との関係で、もっと長い期間、例えば20年ほどのアメリカにおける10年債の実質金利を描いてみたものがこのグラフです。計算の仕方は先ほどの短い期間のものと同じになっています。明らかにはっきりとした下降トレンドをたどってきたことが分かります。特にリーマンショック(2008年)の後、ガクンと水準を下げたことがはっきり出ています。先ほどは、直近では実質金利に上昇の傾向が見えると申し上げましたが、それが現れているのはグラフの右端のところで、全体の下降傾向の中で少しはねたにすぎないという動きになっています。

 では、この長期における実質金利の低下トレンドはなぜ発生しているのでしょうか。そのことについて、非常にさまざまな議論がここ5~6年行われてきています。その一つが長期停滞論です。

 例えば、サンフランシスコ連銀(サンフランシスコ連邦準備銀行)の総裁が、少々分かりにくい概念ではありますが、長期の実質金利の均衡値はどのあたりと見られるか、ということについて計算をしました。その結果がこのグラフの太い実線のところになります。ここでは、もう少し長い25年ほどの期間について描かれています。実質利子率の長期の均衡値は、通常、エコノミストの間では自然利子率と呼ばれている概念です。サンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ総裁は「R(アール)スター」という名前を付けて、グラフを書いています。

 これも先ほどの実質金利のグラフと同じように、右下がりの傾向にあり、実は足元の今年(2016年)の...
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