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えひめ丸衝突事故における海底捜索でも活躍したROV

遠隔操縦機~重作業ROV(3)どこまで潜れるか

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
潜水夫が捜索中のえひめ丸
九州工業大学社会ロボット具現化センター長・浦環氏によれば、重作業ROVが必要になる深さの目安は、300メートルだ。そこから3,000メートル程度ならば、重作業ROVが本領を発揮する。ただし、深さによって作業できる内容は変わってくるため、ROVの使用に際してはその点に留意する必要があると、浦氏は述べる。(全5話中第3話)
時間:09:34
収録日:2016/06/15
追加日:2016/12/12
タグ:
≪全文≫

●3,000メートル潜れるROVが売られる時代


 2004年までのROVの歴史を振り返ってみましょう。1986年の原油価格の暴落までに、だいたいのROV技術ができました。つまり2,000メートルまで潜れる商用のROVが、例えば「デパートに並んでいる商品みたいな形で売っている」状況になったのです。当時は2,000メートル以上の深いところに行く必要はありません。

 その後、だんだん深くなっていき、2000年ごろは商用で3,000メートル潜れるものが「デパートで売っている」という状況になりました。その後、どうなったか。2004年ごろに書いたものだと、2010年には商用6,000メートルのものがデパートに出てくるのではないかと思われていたのですが、なかなかニーズがありません。3,000メートルぐらいまでの石油開発で終わっているので、商用のものはこの辺りで終わりです。


●ROVが本領を発揮する深さはどこからか


 それでは重作業ROVが潜れる深さ別に、際立った活動を見ていきましょう。これは縦軸10メートルから1万メートルまであります。この深さ別でどういう作業をしたかを示したいと思います。

 われわれは海の中に潜るのにスキューバという道具を使います。サンゴの海を楽しく潜ることができる道具ですが、これならば30メートルぐらいまで問題なく潜れます。10メートル未満だったら、スキューバを使えばいくら潜っても潜水病にはなりません。それには理由があります。10メートルという場所は、非常に重要な深さの分かれ目です。その次は30メートルで、ここまでならスキューバで行けます。ですから、30メートルのところに何か落ちていたなら、取りに行けと言われても「はーい」と言って取りに行けるわけです。

 しかし、それより深いところはもうROVの世界なのです。もちろん、飽和潜水という技術があって、300メートルまでは潜れます。100メートルまでなら、混合ガス潜水で短時間の潜水ができます。300メートルになるとどうなるか。これくらいの海底に長い時間いると減圧時間がすごく長くなるので大変なのですが、行けなくはありません。しかし、こういった混合ガス潜水や飽和潜水は、なかなか危険な方法なので、ROV、遠隔操縦機に変えていくべきものなのです。実際、日本では、十数年前までに飽和潜水の研究をJAMSTEC(海洋開発研究機構)でもやっていたし、海上自衛隊でも研究をしていたのですが、今ではそういう研究はほとんどしていません。JAMSTECは研究そのものをやめています。

 それが人間の潜れる限界だとすると、ROVならば何ができるか。1,000メートルまでなら簡単なROVで作業ができる状況だし、2,000メートル、3,000メートルでも商用ROVがあります。それより深くなると、特別仕様のROVが必要になります。6,000メートル潜れるものも売っていなくはないのですが、特別仕様になります。


●深さ別に見るROVの活動


 そこで、これまでどういう活動があったか。まず「えひめ丸」は、深いところから35メートルまで引き上げました。なぜ35メートルかと言えば、空気潜水が簡単にできる深さだからです。あるいは、110メートルの深さに「クルスク」というロシアの潜水艦が沈没しました。これはプーチンが大統領になった直後に起こった事件です。110メートルはそれほど深いところではありません。そこでどうするかというと、潜水艦救難艦(DSRVと言います)が助けに行きます。ロシアは自分たちで助けられると思いました。しかし、いろいろな理由があり、助けられませんでした。アメリカやヨーロッパが「俺たちで助けに行ってやろうか」と言ったら、ロシアが拒否しました。そのため乗組員全員が死亡しました。

 110メートルとはどのくらいの深さか。潜水艦の長さは100メートルを超えていますから、それを垂直に立てると海面に出てしまうぐらいの深さなのですね。そんなところに落ちているものも助けられなかった。これは、プーチン大統領にとっては非常に大きな汚点でした。アメリカがやったら助けられたか、日本も行けば助けられたかどうか。おそらく助けられたと思います。彼らは死ななくて済んだのですが、残念です。その後、ヨーロッパの人たちが「クルスク」を引き上げました。

 それから「へりおす」という日本の船が、今から30年以上も前に230メートルの深さに沈没しました。これは深田サルベージ建設が引き上げました。あの戦艦大和は350メートルに沈んでいます。ここには有人潜水艇も行っていますし、ROVも行っています。最近、呉の大和ミュージアムがお金を出して、深田サルベージ建設にお願いして調査に行きました。この辺りまでは簡単なROVで出かけて行けます。行って何を取ってくるかは、いろいろと課題がありますが、深さとしては大した深さではありません。

 次は「えひめ丸」です。最初に沈没した時は600メートルの深さに沈没しました。...
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