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日露首脳会談では「北方四島」問題の進展が最大の焦点

日露関係正常化に向けて(2)北方四島帰属問題

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
北方四島の地図
12月の日露首脳会談で最大の焦点となっているのは、「北方四島」問題に関する交渉に何らかの進展が見られるかどうかである。北方四島は、日本とロシアだけでなく、中国やアメリカ、それぞれにとってどのような意味を持つのか。歴史学者で東京大学名誉教授の山内昌之氏に、日露が直面する喫緊の課題とそれを見据える視座のあり方をご提示いただく。(全2話中第2話)
時間:17:34
収録日:2016/11/14
追加日:2016/12/15
≪全文≫

●ユーラシアの政治力学の中で動く日露関係


 皆さん、こんにちは。前回も申し上げましたが、日露関係はユーラシアの政治力学・地政学の変動との関わりで、相当急速に動こうとしています。

 西においては、ウラジーミル・プーチン大統領は今年(2016年)の夏、バルト三国のうちエストニアとラトビアに近接した地域において大きな軍事演習を行いました。NATOのロシア版であるCSTO(集団安全保障条約)に加盟しているベラルーシ、キルギス、カザフスタン、タジキスタン、アルメニアといった国々との共同演習を試みて、NATOへの威嚇を加えたのです。

 また、クリミア問題等々以降、天然ガスのパイプライン問題をめぐって度々緊張したウクライナ、さらにシリアなどの地域において、ロシアは現状打破というよりもかつて敷かれた線、あるいは国境のあり方を認めないという、安定的秩序への事実上の挑戦を繰り返しています。

 さらに中央アジアにおいては、中国がシルクロードを押さえる目論見で構想する「一帯一路」に対して、自ら「大ユーラシア経済圏」構想を掲げることにより、中国によるイニシアティブ奪還を防ごうとしています。

 こうした中国に対する警戒心は、シベリア・極東における中国の人口圧力とオホーツク・北極圏につながっていくロシアの生命線に対する中国の脅威の増大などと相まって、日本との友好を浮上させました。日露関係は、戦後に政治的な平和条約は結ばれていないものの、互いの利害を調整しつつ共存してきました。この二国間関係をなんとか安定した軌道に乗せようという点が、プーチン大統領の一つの方向性として見えてきたことかと思われます。

 日本側にとっても、ロシアとの関係が好転することは「北方四島」問題の解決につながるだけではありません。東シナ海の南西諸島や天然ガス田をめぐる対中国関係においても、日本とロシアが友好関係にあることは一つの大きな力になるのです。こうした認識の下に、現在日本の外交と安全保障政策は、大きな進展を見せようとしています。


●北方問題とは「四島の日本への帰属」の問題


 現在の政府の立場は、こういうことです。「四島の日本への帰属問題を解決し、平和条約を締結する」。これが戦後、政府や内閣が交代しても、一貫して取ってきた公式の立場です。

 すなわち四島の日本への帰属、国境線がどこに引かれるかが確認されるならば、その返還の対応や時期などについては柔軟に対処するということです。日本政府はここまで具体的に問題を提起して、ロシアの対応を迫ったのです。しかし、ロシアが日本に対して必ずしもフェアに対応したとはいえません。

 例えば、平成5(1993)年にボリス・エリツィン大統領が訪問した時、当時の細川護煕首相との間に「東京宣言」が発表されました。それは、「北方四島の帰属の問題を、歴史的・法的事実に基づいて解決し、可能な限り早期に平和条約を締結する」というものでした。この東京宣言と、日本政府が一度も下ろしたことのない基本的な立場の違いは、一回聞いただけではなかなかお分かりにならないかと思います。

 私が先ほど申したのは、「日本固有の領土である北方四島の日本への帰属問題」を解決し、平和条約を締結するということです。ところが、1993年に細川首相がエリツィン大統領との間に合意した東京宣言では、「北方四島の帰属問題を、歴史的・法的事実に基づいて解決する」とありました。

 どこが違うのか。似たような言葉ですが、大事なところがすっぽり落ちています。日本の基本的立場は、「帰属問題」だけではなく「日本への帰属問題」を解決するということですから、「日本への」の部分が根本的に大事なのです。


●衆院予算委でも焦点になった「四島の帰属問題」


 ところが最近、日本政府の間では、このあたりがやや曖昧になってきています。その曖昧さが、意図的・意識的にそうなのか、あるいは意図せざる形で国会答弁がそうなっているのか。いささか不明な点もあります。

 例えば、2016年10月3日の衆議院予算委員会では、岸田文雄外務大臣が民進党の前原誠司元外務大臣との質疑において、重要なことを語っていました。最初、岸田外務大臣は「日本への帰属を含め、四島の帰属を明らかにする」、その後「四島の帰属・日本への帰属。これらを明らかにする。その上で平和条約を締結する」と述べたのです。そこで、前原元外務大臣は「この『四島の帰属』とは、『日本への帰属』ということでよろしいのですね?」と確認を取ろうとしましたが、岸田外務大臣は「四島の帰属先、日本への帰属を明らかにする」というように答弁したのです。

 これは、その場で私も聞いていて、なかなか一回では飲み込めないところがあったのですが、岸田外務大臣は「四島の帰属先を解決する」と、それがイコール日本への帰属...
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