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五箇条の御誓文の源流には横井小楠の独自の思想がある

五箇条の御誓文(2)源流としての横井小楠と坂本龍馬

松浦光修
皇學館大学 文学部国史学科教授
情報・テキスト
横井小楠
wikimedia commons
皇學館大学国史学科教授・松浦光修氏による「五箇条の御誓文」連続講話。第2回では、「御誓文」の思想的源流とされる、横井小楠と坂本龍馬に迫る。アメリカの共和政治と儒学を融合させた小楠の思想は、坂本龍馬の「薩土盟約」や「新政府綱領八策」に引き継がれた。「維新」の精神は、ここからスタートしていたのである。(全8話中第2話)
時間:10:22
収録日:2015/11/29
追加日:2017/01/03
横井小楠
wikimedia commons
皇學館大学国史学科教授・松浦光修氏による「五箇条の御誓文」連続講話。第2回では、「御誓文」の思想的源流とされる、横井小楠と坂本龍馬に迫る。アメリカの共和政治と儒学を融合させた小楠の思想は、坂本龍馬の「薩土盟約」や「新政府綱領八策」に引き継がれた。「維新」の精神は、ここからスタートしていたのである。(全8話中第2話)
時間:10:22
収録日:2015/11/29
追加日:2017/01/03
≪全文≫

●「御誓文」の源流(1)横井小楠


 なぜ日本の未来が、世界の未来につながるのか。これは、横井小楠の考え方です。富国強兵にとどまらず道義を世界に布(し)く、それが日本の使命である。これが幕末の横井小楠が考えていたことです。ということで、近代日本の精神の柱とも言うべき、この「五箇条の御誓文」の文章は、どのような思想に基づいて書かれ、その内容はどういうものだったのか。あるいは、そこにどういう歴史的背景があるのか。それらのことについて、お話しします。

 「五箇条の御誓文」の源流をたどるとき、まず行き着くのは、先ほど述べた熊本の横井小楠です。この小楠という人は、勝海舟が以下のように評価したことで知られている人です。

 「おれは、今までに天下で恐ろしいものを二人見た。それは横井小楠と西郷隆盛だ。・・・その(横井の)思想の高調子なことは、おれなどは、とてもはしごを掛けても、およばぬ、と思ったことがしばしばあったよ。・・・横井の思想を、西郷の手で行われたら、もはやそれまでだと心配していたのに、はたして西郷は出て来たわい」

 このような言葉が残っています。小楠は、アメリカの共和政治の思想を讃えていた人ですが、その共和政治の美点を小楠に教えたのは、勝海舟です。ただし共和政治といっても、当時はいろいろな解釈がありますので、今風の解釈ではないということは、申し添えておきます。小楠は、それを儒学的な教養と融合させて、独特の思想をつくり上げました。


●『国是三論』で論じられた、国のあるべき姿


 小楠の代表作の一つが『国是三論』です。これは万延元(1860)年、小楠52歳のとき、福井藩からの三度目の招きを受け、藩論をまとめるために、執筆したものです。その中には、「五箇条の御誓文」に通じる思想や用語が、ちらほらと表れています。

 ①「天地の気運に乗じ、万国の事情に随ひ、公共の道をもって天下を経綸せば、万邦無碍(ばんぽうむげ、「すべての方面でさわりのないこと」の意)にして・・・」

 ②「天徳にのつとり、聖教により、万国の事情を察し、利用厚生、大いに経綸の道を開いて、政教を一新し、富国強兵、ひとへに外国の侮りを禦(ふせが)んと欲す」

 ③「なほ旧見を固執して短兵陸戦を本邦の長技と頼み、あるいは、にわかに銃陣を学んで侮りを禦んとする、実に憐れむべきの陋習(ろうしゅう)なり」

 これらの発想や表現は、「御誓文」に非常に通じるところがあります。例えば①に「公共の道」という言葉が出てきますが、これは「御誓文」の「公道」と同じことです。②にある「大いに経綸」という言葉も、「御誓文」の「盛んに経綸」とほぼ同じです。③の「旧見」というのも、「御誓文」の「旧来の陋習(ろうしゅう)」に通じる言葉です。

 なお、この「経綸」という、今はあまり使わない言葉ですが、一般的には「治めととのえること」と辞書には出てきます。しかし、晩年の由利公正(三岡八郎)が、この言葉を解釈し、説明しています。「経綸の術は業を興すにあり。業を興すは、資本を充たすと販路を得るの二案の外、あるべからず」。要するに経綸というのは、「経済の振興」という意味です。昔はこの二文字に振り仮名を振って、「よわたり」と読ませているものもあります。

 ちなみに小楠は、この書物で目前に迫っている政治変革のことを「維新」と読んでいます。もっともこの段階ではまだ、幕府による政治改革を期待して「維新」と呼んでいるのですが。ともあれこういう点にでも、この書が...
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