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トランプの「ポピュリズム」と欧州への影響

トランプ外交と世界への影響(1)深まる中東欧州複合危機

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
トランプ氏は欧州から極右による扇動政治の台頭ではないかと警戒されているというが、歴史学者・山内昌之氏は少し違う見方をしている。また、トランプ氏勝利の衝撃は日本と欧州では意味合いが違う、という。いったいどう違うのか。2017年1月に大統領に就任するトランプ氏の外交政策について、中東情勢なども交えながら解説する。(全2話中第1話)
時間:11:24
収録日:2016/12/12
追加日:2016/12/24
トランプ氏は欧州から極右による扇動政治の台頭ではないかと警戒されているというが、歴史学者・山内昌之氏は少し違う見方をしている。また、トランプ氏勝利の衝撃は日本と欧州では意味合いが違う、という。いったいどう違うのか。2017年1月に大統領に就任するトランプ氏の外交政策について、中東情勢なども交えながら解説する。(全2話中第1話)
時間:11:24
収録日:2016/12/12
追加日:2016/12/24
≪全文≫

●トランプ勝利を極右による扇動政治の台頭として警戒する欧州だが


 皆さん、こんにちは。今日は、新しくアメリカ大統領に確定したドナルド・トランプ氏の外交と、さらにその外交手法をめぐって世界にどのような影響があるのか、それによって日本がどのような影響を受けるのか、こうした点について、中東情勢も交えながら語ってみたいと思います。

 トランプ氏のアメリカ大統領選挙における勝利は、ちょうど来年(2017年)の5月頃に予定されているフランスの大統領選挙にも大きな影を落としています。フランスをはじめ欧州において、トランプ氏は極右ではないか、そしてトランプ氏の勝利を極右による扇動政治(デマゴギー、demagogy)の台頭として警戒されている、というのです。

 イタリアなど他の国々においても、トランプ氏のような、彼らいわく極右の大統領が誕生したのは、アメリカの際限のない超自由主義の産物である、という観測がされています。フランスの左派系新聞である『リベラシオン』は、「トランプ黙示録」なる表現を使っています。こうしたトランプ黙示録が欧州にも広まるのではないかという恐れが、今、EU域内において広まっているのです。そういう意味では、確かにフランスのフランソワ・オランド大統領のいう「不確実性の時代」が始まったと言えるのかもしれません。

 しかしながら、トランプ氏の運動は、極右のイデオロギーというよりはせいぜいポピュリズム(大衆迎合)というもので、冷戦初期のアメリカにあったような、そして、以前紹介したかもしれませんが、アメリカのマッカーシー旋風のような極右じみたイデオロギーを伴うわけではありません。


●多党制のフランスではトランプ現象が起こらない


 そもそも二大政党制のアメリカ政治と多政党制政治のフランスでは、大統領選挙の在り方も違っています。フランスにおいては多党制が敷かれているために、第一回の大統領選挙の投票で(国民戦線の)マリーヌ・ル・ペン氏が優位に立ち仮に一位になったとしても、二次投票に進んだときにトランプ現象が起こるかというと、そういうわけにはいきません。

 と申しますのは、フランスには強固な中道左派あるいは中道右派、こうしたグループだけではなく、右派と左派にそれぞれ強固な基盤を持つ政党が存在するからです。もしル・ペン氏が第二投票に進んだ場合、最終投票ではいわゆる反「極右」で結束する中道右派と右派の連合に、アメリカにないものでフランスにはある、すなわち強固な左派層から多数の票が流れ込むからです。つまり、反「ル・ペン」ということで、フランソワ・フィヨン氏、オランド氏、ニコラ・サルコジ氏といった政治家が結束するのがフランス政治の特徴に他なりません。


●中東欧州複合危機の深刻化とポピュリズムの助長


 その上、トランプ氏勝利の衝撃はG7の中においても、日本と欧州では意味合いが異なると、私は思います。日本において、トランプ現象は日米安保条約をはじめ、日米二国間の同盟関係への波及が重要な点で、日本の国内政治におけるポピュリズムの台頭を刺激するわけではありません。しかし、欧州において、トランプの当選はイギリスのEU離脱(Brexit)と並んで、政治の枠組みや市民の投票行動をポピュリズムに大きく変える一因ともなっています。

 さらに、EUにはトランプ氏が手を引きたがるウクライナ問題や中東、特にシリアの問題に関して、アメリカのリーダーシップを肩代わりする力はありません。また、EUはシリア問題など中東の懸案を引き受...
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